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「お待たせ」
 秋秀がカウンター向こうの図書委員室へ入れてくれる。光穂は中にいた図書委員の生徒達にあいさつをしながら、定位置になっているソファへ腰を下ろした。
 秋秀がマスカットジュースの瓶を取って、テーブルへ置く。それから、彼は椅子の背にあったブランケットを取り、光穂のひざへかけた。
 こういう時、光穂だけではなく、その行為を見た周囲も幸せそうな表情を見せる。光穂は秋秀が誇らしくて仕方なかった。
「何? 見惚れてる?」
 秋秀が笑いながら、眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。光穂も笑ったが、かすかに頷いた。
「光穂先輩、紅茶、飲みます?」
「いいよ、いいよー。今、ジュース飲んだばっかりだから」
「秋秀先輩は?」
「俺はもらうよ。ありがとう」
 秋秀がテーブルの上にあった本を手にする。彼は電子書籍よりも重みや厚みのある製本のほうが好きだ。今や出版される本といえば電子書籍だが、光穂も紙から作られた本の独特なにおいや装丁は気に入っている。
 これだけ技術が発達した今でも、時おり紙ベースの資料が配られることがある。あるいは、贈り物を包んだり、その贈り物に添えられるカードに使われたりと、日常的に目にすることは多い。
 光穂は紙が好き、本が好きと言う秋秀そのものが、目を喜ばせ、心を温かくしてくれる紙みたいだと思う。
 当たり前のようにソファの隣へ座り、本を読み始めた秋秀の横顔を見つめる。ひたむきな彼の表情に安堵し、光穂は開け放されている窓のほうへ視線を移した。
 新緑の五月という表現があるように、窓の外は緑と光が戯れている。ここへ来ると心がないだ。しだいに、体が秋秀へ近づく。彼の手が右肩へ回り、ひざへ上半身をあずける形になった。
「六時半には起こして」
 仰向けになり、ソファの肘置きへ足を伸ばした光穂の言葉に、顔をのぞき込んだ秋秀が笑みを見せた。
 光穂は生徒会長になってまだ一ヶ月ほどだが、人の上に立つ難しさを感じている。卒業生である歴代生徒会長の顔が強張るのも無理はない。
 周囲のフォローがなければ、自分は歓迎会の段階で投げ出していただろう。五月は三日後に迫る催しだけだが、五月末から中間試験があった。
 六月は授業参観の後あたりから、運動系の部活動をしている生徒達は地区予選が開始される。ばたばたするだろう、と予測していた。図書委員室で午睡ができるのは今の間だけだ。昨晩も遅くまで受験勉強をしていた光穂はすぐに寝息を立てた。

 図書館の前まで並んでいる列を見て、光穂はくちびるを引き締める。だが、生徒達から声がかかれば、笑みを浮かべた。
「進んでる?」
「全然。みっちゃん、何とかしてよー」
「あ、せんぱーい、さっき、達義先輩が探してましたよ?」
「湊先生も探してたぞ」
 光穂は頷き、礼を言いながら最前列へ向かう。一日目は無事に終了したが、二日目は生徒会役員も三名抜けたため、一階にある調理室へ様子を確認しに行った。ポケットからケータイを取り出すと、顧問の湊と達義から着信とメールがあった。
 メールを開く前に図書館を抜けて、中庭へ入る。それぞれのクラスの代表が必死にクッキーやケーキを売っている。園芸部員達は訪れた生徒達へ押し花で作ったしおりを渡し、図書委員達が久しぶりに集まる生徒達を二階へ誘導する。六月から始まる読書週間の説明をするためだ。
 園芸部員の作るしおりは光穂も毎年集めている。螺旋階段で二階へ上がる生徒達を見上げて、視線を落とすと、上から言い合う声が聞こえてきた。

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