spleen23 | ナノ





spleen23

 明史は首を横に振る。
「今日はプリンだけです」
 話すきっかけを作りたいと思い、光穂は白い瓶に入った飲み物を手にして、明史のすぐうしろに並んだ。
「最近どう?」
「……元気です」
 カードで支払いを終えた明史がかすかに笑みを浮かべる。直の話を聞いていなくても分かる、何か悩みがありそうなほの暗い笑みだった。購買を出るところで、もう一度、明史の名前を呼ぶ。
「図書館、行かない?」
 明史は少し考えていたが、「遠慮しておきます」と頭を下げた。
「秋秀先輩によろしく伝えてください」
 秋秀の名前を出されて、明史が自分達の邪魔をしたくないのだと理解した。
 初等部の時から変わらないな、と光穂は小さくなっていく背中を見つめて思った。
 話すまでは冷たい雰囲気だと感じるが、実際の明史は思慮深く大人しい。初等部の頃はよくうつむいている子だったが、中等部に上がってからは周囲をうかがい、気づかいのできる後輩だった。
「いらっしゃい」
 いつの間にか、図書館まで来ていたらしい。一階部分にある本棚の間から、秋秀が顔を出した。
「うん、いらっしゃったよー」
 光穂が笑みを浮かべて近づくと、秋秀は眼鏡を押し上げて、頬へキスをしてくる。逃げたりしないのに、手は腰へ回っていた。可愛い秋秀の独占欲だと感じて、光穂は思わずほほ笑む。
「何、買ったんだ?」
「えーと、マスカットジュース」
 瓶を持ち上げて確認する。秋秀の手が頭をなでた。
「この列、整理したら終わる。あっちで待ってろ」
「うん」
 図書館の中で飲食が許可されているスペースは決まっており、光穂はそちらへ移動した。宿題や自主勉強をしている生徒達が小さな声であいさつをしてくれる。
 一階には昔ながらの本がぎっしりと本棚へ並んでいた。ほとんどが館外への持ち出し不可となっている古いものばかりだ。
 二階には電子書籍のデータベースがあり、設置されたパネルで本を読んだり、データの貸し出しや返却ができる。音楽や映画のデータもそろっていて、週末を寮で過ごす生徒達で金曜は特に混み合う。
 光穂はマスカットジュースを飲み、目の前にあるパネルへログインした。生徒会関係のメールチェックしながら、催しの内容を読み返した。
 図書館での催しには名前がない。強いて言えば、チャリティー活動だ。図書館と園芸部、そして、二年生が中心になる。
 家庭科の授業の一環で、二年生が毎年クッキーなどの焼き菓子を提供することになっている。図書館から続く中庭に会場を設置して、各クラス代表が訪れた生徒達へお菓子を売り、売上金は寄付される。
 中庭では園芸部員達がせっせと花壇や鉢を整備していた。ちょうど二階の渡り廊下から、園芸部部長の園田純(ソノダジュン)が指示を出している。
 二年生は生徒数が多く、十クラスのため、五クラスずつ二日間に分けて行われる予定だ。当日は昼からの授業が調理の時間に当てられる。一日目は副会長一名だけが抜ける。二日目は会計二名と総務一名だ。
 名前がないにもかかわらず、図書館から中庭までは毎年、生徒達で埋まる。そのため、図書委員や園芸部から人手を借りても、風紀委員との連携も欠かせない。

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