spleen21 | ナノ





spleen21 秋秀×光穂

 深刻な表情を浮かべた直が大きく息を吐いた。風紀委員長の彼は三日後の図書館での催しの打ち合わせで生徒会室まで足を運んでいるが、打ち合わせが終わると、長テーブルの上を指先でこつこつと叩き始めた。
 初等部からの付き合いだ。直はストレスを感じてる時、指先で机を叩く癖がある。光穂は苦笑して、角の席に座り直した。
「すなお、どしたー? こうちゃんとケンカ?」
 まさかそんなわけはないか、と思いながら光穂は肘をつく。
「いやいや、航也とは順調だよ」
 直は思い出し笑いをした。
「うわ、何、その幸せオーラ」
 ふふふ、と笑う直に、光穂は思わず溜息をつく。教師達から今年の三年生はおっとりした子が多いと言われていたが、それはあながち間違いではない。三月にある生徒会役員選出の際に、生徒会長には光穂以外に二人の候補が上がっていた。
 成績順であれば光穂は三人の中で三番目であり、中等部と高等部で一年ずつしか生徒会執行部に関わったことがない。選挙をするまでもなく、上位二人に譲ろうと思っていたら、二人とも光穂がいいと推してきた。
 生徒会長という役職に就きたい生徒は一定数いて、毎年、立候補がある。だが、光穂達の学年では立候補がなく、三人とも推薦された。
 そのうちの一人、副会長をしている荒川達義は頼れる兄のような存在で、彼こそ生徒会長にふさわしいと思っていた。ところが、達義は自分自身で、「俺は副官的存在のほうが向いてる」と副会長に自薦した。
 もう一人の候補者は学年一の秀才、寺井秋秀(テライアキヒデ)だ。秋秀は初等部高学年から、ずっと図書委員をしていた。彼が新学期にはまた図書委員になって図書委員長になりたいことを知っていた光穂は、もちろん彼のことを生徒会長にしようとは思っていなかった。
「おまえも、今、秋秀のこと考えてただろ?」
 直からの指摘に光穂は頬を染める。
「そ、そんなことない。それで? ケンカじゃないなら、何?」
 どうせ秋秀とは後で会える。光穂は直に話を促した。
「おまえ、明史、知ってるよな?」
「うん。購買のフルーツタルトが大好物で、すごくきれいな一年生だよね?」
「何だ、その覚え方」
 直が肩をすくめる。
「分かってるよー。八組の風紀委員の子でしょう?」
「そう。その明史の様子がおかしくてさ、いちおう声はかけてるけど、先週から一年全体の様子が変わったんだ」
 眉を寄せた直が、またテーブルをこつこつと叩く。
「一年の風紀連中に聞いても、噂話程度しか聞けなくて」
 その噂話は光穂も知っている。
「若宮志音を振った話?」
「そう、それだ」
 詳細は知らないが、その話は三年にまで届いている。若宮志音といえば、若宮財閥の三男で彫りの深い顔だちは甘く、一度見たらまじまじと見つめてしまうほど整っている。常に一組の成績上位者である彼にも、もちろん今期生徒会執行部入りの声はかかっていた。
 だが、志音は中等部の時からそういった組織にまったく興味がない。光穂は生徒会長の任を受け入れた後、顧問である湊(ミナト)とともに、書記か総務にならないか、と話を持っていったことがあった。生徒会長だけは三年生が担い、会計は二年生から出すという決まりがあるが、他の役職には特に学年の制限はない。
 結局、志音に断られて、現在、生徒会役員になっている一年は、書記二名と総務一名だけだ。志音が望むなら達義とともに副会長の座を用意することもできた。彼の性格からして、来期も断りそうだが、三年になった時、果たして彼ほどの適任者が育っているかどうかは分からない。

20 22

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -