わかばのころ 番外編14 | ナノ





わかばのころ 番外編14

 大学一年の夏休みに、潮が運転免許を取った。彼が運転する車で、若葉は新しい部屋へ向かっていた。大学から自転車で十分ほどの学生向け集合住宅だ。ハイツミドリという名前の通り、緑に囲まれていた。
 潮は一年間、言葉通りに若葉の家から片道二時間もかけて大学へ通った。若葉が受験を終え、同じ大学へ合格したことで、ようやく長い一年が終わった。
 若葉は潮とともに互いの両親へ頭を下げて、大学近くに部屋を借りて一緒に暮らしたいと頼んだ。潮が少し前から、そのことを双方の両親へ伝えていたらしく、あっさりと了承をもらい、この部屋を見つけた。
 軽トラックを運転しているのは若葉の父親で、その荷台には二人の家具や荷物が積載されている。ハイツミドリの前にはバイクを走らせてきた潮の友達の姿があった。いまだに一人では遠出できないが、潮が一緒であれば、若葉はどこまでもついて行った。
 潮の友達は皆、陽気で面白い人達ばかりだ。大学の友達も混じっているが、彼らの中に優を見つけて、若葉は手を振った。

 五人の友達とそれぞれの父親に手伝ってもらい、引っ越し作業はすぐに終わった。父親達は、「手伝ってくれた友達とごはんに行きなさい」と潮に金を渡して、すぐに帰る。週末に帰る約束をして、若葉は潮とともに軽トラックを運転する父親と乗ってきた車を運転する潮の父親を見送った。
 近くにあるファミレスに移動して、皆と昼食を食べ、夜には二人きりになる。まだ生活感のない部屋に立ちつくすと、うしろから潮が抱き締めてきた。
「やっとだ」
 ウェストのあたりで結ばれた手を上から握る。潮がうなじから肩へキスを落とした。
「うーちゃん、口にして」
 振り返ると、潮が笑みを浮かべ、くちびるを寄せる。絡んでくる舌にこたえながら、潮がしだいに体勢を変えてくる。若葉はフローリングの床で転倒しそうになった。彼の手が支えているため、もちろん転ばないが、このまま続けるならベッドに移動したい。
「ベッド、一つにしたいって言わなくてよかったな」
 寝室に二つ並んでいるベッドを見ながら、潮が苦笑する。今日、呼んでいた友達は皆、二人の関係を理解してくれた人間だった。ベッドが二つ、同じ寝室に並んでも、誰も疑問を口にはしなかった。
「でも、お父さん、知ってるよ」
「え?」
 潮が驚いて声を上げる。若葉は父親に誘導されてしまい、すでに体の関係があることはばれていた。潮はそのことを知らない。
「マジ?」
 あせっている潮を見て、若葉は懸命に言いわけを考える。
「だ、だいぶ前から知ってたみたい、きっと……俺の声、聞こえちゃったんだよ、うん、でも、別に怒ってなかった。ちゃんと、セーフティセックスして、検査も受けて、何かあって話しづらい時は、慎也おじさん達に相談しなさいって」
 うなった潮は若葉の手を握りながら、「あー、何かその話聞いた後だとやりにくいな」とささやく。盛っているわけではないが、若葉は今夜から二人暮らしが開始すると指折り数えていたため、初めての二人きりの夜に期待していた。
 仕方ない、と諦めて、母親が持たせてくれたカレーを冷蔵庫から取り出す。若葉はクローゼットにしまったばかりのエプロンを探し、身につけた。祖母や母親が使用しているのと同じ白いエプロンは、母親からもらったものだ。
 料理の腕はそこそこ上がったと思う。祖母や母親だけではなく、慎也からも色々なレシピを教えてもらった。不器用だった自分が包丁を握って、口に入れられるだけの料理を作れるようになったのは、投げ出さずに教え続けた三人のおかげだ。
 テレビのチャンネル設定を始めた潮に、「ごはん一時間後でいい?」と尋ねる。炊飯器の釜を取り出していると、振り返った潮がテレビを消した。
「何だよ、それ」
「え?」
「何で白なんだ……」
 似合っていないということなのか、と若葉が首を傾げると、潮が手を引いた。
「すげえかわいい。かわいすぎる。それ、つけたままするよな?」
「うーちゃん?」
 ぐいぐいと手を引いて、寝室へ誘われる。

番外編13 番外編15

わかばのころ top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -