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spleen10

 志音は切り傷に消毒液を吹きかけてから、バンソウコウをはってくれた。遠目でも彼の容姿がどれほど整っているか分かるが、間近で見ると、彫りの深い顔だちはいっそう美しく見える。明史は思わず見惚れてしまった。
「部屋、どこ?」
 ベッドのそばでしゃがんでいた志音が立ち上がり、隣へ腰かける。
「え、あ、一階」
 明史は濡れたタオルを外し、Tシャツを元に戻した。
「じゃ、送るの面倒だから、ここに寝ろ」
「え?」
 タッチパネルで照明をしぼり、志音は明史の体をベッドの奥へ押しやる。
「え、いや、あの、俺、戻るよ」
「送るの面倒くさい」
 薄いブルーのシーツがかかったタオルケットを頭まで引き上げられる。
「一人でもどっ、わ」
 完全に照明を落とした志音がベッドに入り、体を寄せてきた。
「いいから、寝ろ」
 熱い体がすぐそばにある。志音は必要以上に接触せず、明史が緊張から瞬きを繰り返している間に眠った。その寝息を聞き、眠る状態になれない明史は、そっと起き上がり、足元から下りた。
 幸い、志音はよく眠っている。うるさくて眠れない、と怒っていた彼を思い出しながら、明史は椅子にかけてあるパーカーを羽織った。
 手当てしてくれた礼は明日言えばいい、と部屋を出る。出たところで、宮野大河(ミヤノタイガ)がその腕の中に誰かを抱き締めていた。大河は明史に気づき、驚きで目を丸くしている。
 明史は視線を伏せて、足早に廊下へ出た。自分の部屋へ戻り、ベッドへ横になっても、なぜか眠れない。志音は初等部から有名だった。家柄、成績、容姿と三つもそろった同級生は、皆からの羨望の視線を集めている。
 志音のグループはほとんどが一組か二組の生徒達の集まりで、明史には遠い存在だった。さっぱりした性格で、強引なところはあるものの、基本的に優しいと評されている。
 明史はまさにその通りだったと思い、志音の手が触れたアザへ手を置いた。生徒会役員や風紀委員の顔は、教師達の次に覚えるべきだと言われている。彼も明史が風紀委員であることくらい知っているだろう。そして、その中でもっとも嫌われている風紀委員であることも知っているに違いない。それでも、普通に接してくれた。少しずつ温かい気持ちになり、明史は目を閉じた。

 朝当番といって、寮と校舎をつなぐ出入口に立ち、生徒達へあいさつをする当番の明史は、早めに支度をして定位置へ立った。食堂はいつもより早い時間に行ったため、まだ誰もおらず、一人でゆっくり食事できた。
 もう一人の当番は田沢だが、彼は朝に弱く、ぎりぎりに来る。ここに立っていれば志音もすぐに見つけられるだろう。早めに登校する生徒達がぱらぱらと通り過ぎる。明史はあいさつをしながら、彼らの制服や持ち物に目を光らせた。
 田沢はクラスメートと軽く話をしていた。登校時間のピークになる八時頃、聞き覚えのある声が明史の耳に入った。昨夜、鬼ごっこをしていた生徒達だ。そちらへ視線をやると、昨日はよく見えなかったが、三組の生徒を中心に団体がやって来る。
 中心にいたのは志音のそばで甘えた声を出していた生徒だ。高等部から編入した外部組で名前までは覚えていないが、一人だけ一組に食い込んだ優秀な生徒だと記憶している。その彼が睨むようにこちらを見て、それから、周囲の生徒達へ何かを言った。
 大柄な生徒を始め、小柄な生徒達もいたが、皆が明史のほうへ向かって歩いてくる。どんっと大きくぶつかって、わざとらしく、「すみませーん」と言われた。ふらついた後、体勢を整えようとする間に、またぶつかってくる。側溝部分に追い詰められて、明史の右足が側溝へ落ちた。
「っあ」

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