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 トレイを取って、セットメニューのおかずを選び進んでいく。最後にご飯とみそ汁を受け取り、カードをかざした。食堂内はまだ半分ほどしか埋まっていないが、ぼんやりしていると部活動を終えた生徒達や少し時間をずらそうと考えている生徒達と被るため、早めに席を確保して食べなければならない。
 別館に購買部があり、外部にあるコンビニに並んでいるような商品を買うことも可能だが、明史は出来たてを食べられる食堂のほうが好きだった。隅のほうの席を目で探す際に、交換留学生の団体を目にした。生徒会役員達の席のほうへ歩いていくため、自然と逆方向を目指す。
 出入口に近い場所はトレイ返却口から離れるため、あまり生徒がいなかった。明史は柱の影になるテーブルを選ぶ。
「いただきます」
 白身魚の甘酢あんかけを食べ始める。明史の同室者は同じクラスの青野将一(アオノショウイチ)だ。将一はあと少し点数を上げれば七組に入れる。クラスの中では首位で、大人しいタイプの子だ。
 その将一が友達とともに目の前を通り過ぎた。彼は中等部からの編入組だが、今では他クラスにも友達がいるらしく、大人しいタイプにもかかわらず、ちやほやされている。おそらく彼の低めの身長と子犬のような愛らしさを放っておけないのだろう。それもある意味で人望だと思った。
 話相手がいないため、明史はすぐに食べ終わり、トレイを返却した。生徒会役員が集まっているところは、いつもにぎやかで楽しそうだ。視線を動かすと、直達が食事している光景も見えた。
 明史は食堂から寮へと戻る。兄もあのにぎやかで華々しい生徒達の一人だったに違いない。ユニットバスの中にある洗面台には鏡がはめ込まれている。明史は自分の姿を映した。
 母親に似た明史は将一と同じく身長が低い。切れ長の瞳とその瞳にかかるまっすぐな黒い前髪が、明史自身を冷たく見せた。センターで分けている前髪を指で払う。兄が笑うと人懐こい笑みになるが、自分が笑うと、そうはいかない。
 鏡を見ながら笑う練習をするなんてどうかしている。明史はうつむいて白いタイルを見つめた。兄のようにアメリカの企業に就職できるとは思えないが、少なくとも両親の関心を引くためには、兄と同じ大学へ入らなければならない。

 真面目だし、向いている、というクラスメートの言葉で初めて風紀委員になったのは中等部一年の時だった。職員室の風紀顧問へ規則違反の生徒の報告をした後、寮へ帰るつもりで廊下へ出た。
 黒岩に呼び止められたのはその時だ。中等部と高等部は校舎じたいは別々だが、パティオの間にある廊下を抜ければつながっている。生徒間の行き来はあまりなく、教師達がたまに往来していた。
 まだ中等部に上がったばかりの明史は、黒岩が高等部の教師だとは分からなかった。兄のことを持ち出され、また兄と比較されるのかとうんざりしていると、彼は明史を褒めてくれた。
 褒められた瞬間、明史の瞳から涙があふれた。それを見た黒岩は笑ったりせず、軽く頭をなでて、励ましてくれた。
 三年の月日が経過した今、明史は無知だった自分を恨んでいる。進路指導室の一室の中で黒岩に先ほど見かけた規則違反行為の報告をした。ケータイに読み取らせた生徒のクラスと名前、それから内容を伝え終わると、彼はディスプレイを眺めながら、生徒達のIDを確認して、呼び出しメールを送付している。
「明史」
 各教室や施設は、そのほとんどがIDカードをかざすことで開く。進路指導室も使用中になっていても、外から誰かがカードをかざせば、中へ入ってくることができる。だが、明史が今いる部屋は違う。黒岩が特別に暗証番号を組み替えた部屋だ。
 黒岩が差し出した鞄の中を確認する。ビニール袋の中にさらに紙袋が入っており、そこには潤滑ジェルとコンドーム、そして、拡張には不向きな大型の張り型が二つあった。

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