わかばのころ 番外編12 | ナノ





わかばのころ 番外編12

 優の部屋を訪ねた。若葉はとっくに相馬へ帰っていた。相馬市内の病院へ移る前に会えたらよかったが、潮の決心はなかなか着かなかった。若葉の両親や牧達から若葉の様子を聞いては、会いにいくべきだと思う。
「お、来たな」
 優は相変わらずで安心した。事件のことは聞き及んでいるはずだが、そんなことはおくびにも出さない。
「つーか、おまえ、ケータイの電源入れやがれ」
 潮は新しくなった携帯電話をポケットの上から触った。電源を入れたら、きっと若葉からメールがきているだろう。それを確認することが怖い。
「俺さ、若葉のこと、守れなかった……気、失ってて、あいつが来たことも、俺のことかばって……最低だっ、何で、あいつがっ」
 誰も潮を責めない。きっと若葉ですら責めない。それが嫌だった。おまえのせいだと殴られたほうがましだ。父親から一発殴られた程度では、心から罪悪感が消えるはずもなかった。
 潮は優の前で初めて泣いた。守る立場の優なら分かってくれる。彼は優しく笑って、扉を開けた。
「寒いし、まず入れよ」
 熱いコーヒーを用意してくれた優は、潮の話を静かに聞いた。最後まで口を挟まず、潮がすべての思いを吐き出した後、ようやく口を開く。
「辛いな」
 優にはまだ特定の恋人はいない。だが、トップとしてグループをまとめている彼は、やはり潮の気持ちを理解してくれた。
「でも、何かおまえらしくねぇ」
 優は立てているひざに腕を置き、その上にあごを置いた。
「誰も責めないって言うけど、ある意味、そのほうがすげぇことだと思わねぇ? おまえの周りにいる奴らは皆、若葉ちゃんとおまえのこと見守って、あえて言わないだけだろ。なんだかんだ言っても、おまえらはまだ子どもなんだから」
 法に任せるようにと言った若葉の父親の言葉を思い出す。両親はまだ学校に行かない自分に若葉と一緒なら通えるのかと聞いてきた。どうしてそんなことを聞くのかと尋ねたら、若葉は学校へ通えなくなっていると言われた。
 若葉が学校に行けなくなっていることは、牧からも聞いた。一人で電車に乗るのが怖いらしい。毎朝、肩を落として『むすび』に戻ってくる痛々しい姿は容易に想像がついた。
「俺、若葉のそばにいるべき?」
「いるべき? じゃなくて、いたいのかどうか、だろ?」
 何、難しく考えてんだ、と言われて、潮は拳を握る。優の言う通りだ。意識を失って動けない時、若葉は自分のためにやって来て、守ってくれた。今度は自分が彼のところまで行って、守りたい。

 落としていた携帯電話の電源を入れた。受信しているメールを開くと、友達に混じって知らないアドレスからメールがきている。最初のメールを追うと、タイトルに「若葉より」と書かれたメールがあった。
 潮は若葉からのメールを開く。たった一行、「おやすみ」とあった。その日から毎夜、同じ時間帯に、「おやすみ」と書かれたメールを受信していた。潮は携帯電話を閉じて、胸に押しあてる。涙をこらえたつもりだったが、頬は濡れていた。
 父親の帰りを待って、潮は両親へ頭を下げた。相馬に行きたい、若葉の通う高校へ転校したい、と頼むと、意外にも彼らは頷いてくれた。若葉の両親と何度か話し合う中で、若葉が立ち直るには潮の存在が必要だと言われていたらしい。
 若葉の両親は潮も被害者だと考えており、償いのためにそばにいろと言っているわけではなく、若葉は純粋に潮の助けがなければ立ち直れないのだと話していた。潮の両親も今の高校では落ち着いた環境を作るのは難しいため、潮自身が望むなら、転校させてもいいと考えていた。

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