わかばのころ 番外編11 | ナノ





わかばのころ 番外編11

 潮は脳の精密検査の結果が出た後、転院した。若葉の意識が戻ったと聞き、毎日のように見舞いへいく両親からその様子を聞いた。若葉は会いたがっている。潮は若葉に会いたい気持ちと会わないほうがいいのではないかという気持ちで揺れた。
 暴行した連中はすぐに捕まり、潮自身が若葉を巻き込んだわけではないと証明されたが、それでも、潮は若葉の両親が見舞いにきた時、土下座をした。若葉の両親はもちろんそんなことを望まず、互いに無事だったことを喜んでくれた。
「心の整理ができたら、若葉に会いにきて欲しい」
 若葉の父親は以前と変わらない穏やかな瞳で、潮にそう言った。
「以前にも話したけれど、あの子が幸せならそれでいいんだ。君の思いはよく分かる。ただ、仕返しを考えているなら、やめて欲しい」
 床に両ひざをついて、頭を垂れていた潮は、若葉の父親を見上げた。
「法に任せればいい。それに、私達は潮君にも、もう傷ついて欲しくないんだ。分かるね?」
 若葉のことで、父親からは一発殴られた。それは当然のことだと受け止められた。だから、若葉の父親からも殴られるほうがよかった。こんなふうに優しく諭されると、若葉を傷つけた連中に対する怒りが静まるのを感じる。その怒りは若葉の父親が言うように、自分をも傷つける怒りだった。
 若葉の両親は警察の事情聴取の時、できれば若葉について欲しいと言った。日程を聞き、あいまいに頷く。まだ会いにいけるほどの勇気はなかった。両親からも、牧達からも若葉は口を開けば、「うーちゃんに会いたい」と言うと聞いている。
 一人になると、目を閉じて、あの日のことを思い出そうとした。だが、意識を失ってから病院で目覚めるまでの間、記憶がまったくない。若葉は倒れている自分をかばって、連中の相手をした。彼が泣きながら戦っている時、自分はただ寝転んでいた。
 そのことが潮を苛んだ。若葉を守りたかった。不甲斐なさに泣けてくる。肝心な時に役に立たない手が恨めしく、潮は思いきり床を叩いた。

 潮は転院先の病院からすぐに退院した。何とか心を奮い立たせて、若葉の入院している病院へ来た。事情聴取の時、若葉はフラッシュバックを起こすかもしれない。心細いだろうから、一緒にいてくれないか、と再度、若葉の父親から言われた。
 フラッシュバックと聞いて、潮は自分自身が若葉に嫌なことを思い出させる引き金になるかもしれないと考えた。結局、悩み過ぎて、若葉のいる個室前まで来た時、事情聴取は終わっていた。入るか入るまいか、扉の外で立ちつくす。
 中から、若葉の泣き声が聞こえた。
「うーちゃんに会いたい、お父さん、俺、もう疲れた、うーちゃんと、いたい」
 扉を少し開けて、中をのぞくと、父親に抱きつく若葉の姿が目に入った。嗚咽を漏らしながら、自分に会いたいと言い募っている。若葉はまだ頭に包帯をつけていた。痛々しい姿で泣いている彼を見た瞬間、潮は涙をこらえるためにくちびるを噛み締めた。
 あの姿になるまでの過程を知らない自分を恥じた。倒れた自分をかばって、若葉が守ってくれた。拳が震える。ただ抱き締めに行って、ごめんと謝ることなど簡単過ぎる。潮は視線をそらし、来た道を戻った。熱い涙が頬を流れていく。
「うーちゃんと、いたい」
 若葉の声が響く。同じ好きを返して欲しいと言った彼の泣き顔がよぎる。潮は立ち止まって、その場にしゃがんだ。自分だって、同じ好きを返していた。若葉のことが好きだ。今ではなく、その先を見据えるほど好きだ。それなのに、若葉のことを守れなかった。若葉は守ってくれたのに、潮は若葉を守れなかった。

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