わかばのころ 番外編9 | ナノ





わかばのころ 番外編9

 二学期に入ってから、潮はたまり場に行かなくなった。面倒を見ていた歳下の連中からはメールや連絡がきているが、必要と思われるものにしか返事をしていない。放課後、どこにも寄らずに帰るつもりで、校舎を出た。
 うっかりしていたと思う。若葉から昼にきていたメールを読み返しながら歩いていた。だから、猛スピードで走ってきた白いバンに気づくのが遅かった。やばい、と思った時には中に引き込まれ、暴れる前に顔を殴られた。視線をめぐらせて人数を把握しようと試みる。
 押さえつけられている手足は思うように動かない。自分を見下げている男には見覚えがあったが、言葉を発する前に鳩尾を殴られ、そのまま気を失った。
 目が覚めた時、腕だけ縛られていた。埃を被った椅子やテーブルに座った男達が、いっせいにこちらを見る。
「瀬田、おまえのせいで、ひでぇとばっちり食らったんだ」
 学校まで乗り込んできて暴れたのは彼らだ。潮はうしろ手に縛られた腕を動かしながら笑う。
「自業自得だろ」
 五人くらいなら何とか足だけで戦えそうな気がした。だが、目の前にいるのは十人以上で、しかも、鉄製のパイプのようなものを持っている。まずいな、と思いながら、携帯電話をいじっているリーダー格の男を見た。
「俺らの報復が怖くて逃げてたんだろ?」
 その言葉に連中がげらげらと笑った。潮は呆れた笑みを見せる。
「おまえらこそ俺一人に何人で来てんだよ?」
 血気盛んな男が一人、飛び込んできたため、潮は身をかわし、足で彼の背中を蹴った。
「俺の腕を縛るほど、ビビってんのか? まぁ、足だけで十分だけどな」
 縄が外れず、潮はそのまま足だけを使って応戦した。最初は二、三人でかかってきたため、何とかしのげたが、五人で一気に挑まれると、さすがに避けきれない攻撃が出てくる。
 背後をとられて、振り返ろうとした瞬間、頭に衝撃が走った。歯を食いしばって、ひざをつくまいと踏ん張るが、くらくらとめまいがして前のめりに倒れる。自分一人だから、無理ができた。もし、ここに若葉がいたらと思うと、ぞっとする。
 今夜、おやすみメールを入れなかったら、きっと心配して電話してくるだろうと思った。それまでに解放されたい。ぼやけてくる視線の先で、男が自分の携帯電話をいじっていた。返せ、という言葉が出ない。
 若葉は大丈夫だと言い聞かせる。彼は何があっても、一人で相馬から出てきたりはしない。目を閉じると、潮は完全に意識を手放した。

 若葉が自分を大好きなことは知っている。言葉で、目で、態度で、全身で自分に甘え、好きだと伝えてくる。他の男がしたなら、気持ち悪いとしか思えないが、若葉なら可愛いと思った。
 尊敬している牧は会田を見る時、穏やかに優しくほほ笑む。そして、牧はそっと肩を抱き寄せて、当たり前みたいに会田のくちびるへキスをしていた。二人が自分達と同じ歳頃の時に知り合い、長い時間を共有してきたことは知っている。
 だが、それは友達としてだと思い込んでいた。あのキスを見たのは、『むすび』で世話になり始めた翌朝のことだった。それから、二人のアイコンタクトに気づいた。ただほほ笑み合うだけで、互いのタイミングを知っているようだった。
 若葉と気持ちが通じてから、よくあのキスを思い出す。漠然としているものの、牧達のように若葉と長い付き合いをしていきたいと思っていた。
「うーちゃん」
 起き上がろうとすると、若葉が制する。彼は丸い頬を染めて、「まだ寝てていいよ。大好きだよ」と言った。潮はとても眠たくて、彼がいいと言うなら、と布団へ沈んだ。

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