あおにしずむ 番外編11 | ナノ





あおにしずむ 番外編11

 彼の体を堪能したティムは、男二人が並んで寝転んでも広いベッドの上で煙草を吸った。先ほど見た雑誌のせいで、少し感傷的になっている。昔のことを思い出して、むしょうに泣きたくなった。
 彼は自分で起き上がり、シャワーを浴びにいく。もう一年以上、今の関係を続けていた。彼はビルの清掃員をして生計を立てている。妻子持ちだということは最初に会った時から話していた。だから、決して無理な誘い方はしない。
 時おり、彼の瞳が寂しげに光るのを見て、確固たる約束ができない今の関係を歯がゆく思う。一年も体をつなげていれば、自然と情がわき、互いに口にしなくても、通じ合うものはあった。
 彼には昔話を聞かせていた。行為の最中にヤニックの名を呼び、必死に謝り、そのまま泣いた時に告白した。人前で泣いたことは数えるくらいしかなかった。それも、中学校に通うより前の記憶しかない。ヤニックの心を失った時すら、怒りから部屋でこっそり泣いた。
 彼は黙って聞いた後、ヤニックには会いにいくべきではないと言った。ティム自身、その通りだと思う。会いにいって、何と謝罪すればいいのか分からない。それに、ヤニックが今、幸せなことは知っている。わざわざその幸せを壊そうとは、もう思わなかった。
 煙草を吸っているのに落ち着かない。昔のことを思い出し過ぎている。実験と称した行為はひどいものだった。ひざをついたヤニックの瞳からあふれていた涙や、彼の助けを求めた時の表情がちらつく。あの時は内心、嘲笑していた。いまさら遅い、と思い、彼は報いを受けるに値すると信じていた。
 パックやウェインの手前もあったが、ヤニックをいちばんに犯した時、ティムの中にはロビーがまだ触れていないところへ触れたという優越感しかなかった。自分こそが同性愛者のくせに、ヤニックに無理やり言葉を言わせた。
 弱っているヤニックを犯すのは簡単だった。これまで抱いていた犯したいという汚れた感情と裏切られたという憎しみが混じり合い、ティムは彼の痛みも気に留めず、彼をレイプした。
 ウェインがすることに反対しなかったのは、彼が自分以上に残酷にヤニックを傷つけられると知っていたからだ。傷ついて、ぼろぼろになって、最後は自分の手を取ればいい。
 ティムはウェインにあくまでも仲間内の実験だと念を押した。彼は笑って頷く。毎日は難しいが、これからヤニックを抱いて、彼に自分とのセックスを覚えさせようと思った。少しの間は厳しく痛みを与えて、その後は優しくしたら、きっと彼は自分へと落ちてくる。
「ティム、あなたもシャワー、浴びてください」
 彼が髪をタオルで拭きながら、ベッドに座る。
「あぁ」
 ティムは熱いシャワーを浴びながら、自分の考えが誤っていたことに気づいた日を思い返した。その年の落第生はヤニックだけで、ティムは彼がなぜ落第したのか知っていた。その原因は自分だった。
 あまり追い詰め過ぎたら、誰かに、特にロビーに話すのではないか、とあせり、イースターの朝市に様子を見にいった。本当はロビーのところにいて欲しくないが、ティムの予感は的中した。ヤニックはロビーの花屋を手伝っていた。
 久しぶりにヤニックの笑顔を見た。その笑顔を見た瞬間、ティムは自分が何を失ったのか気づいた。大通りを小走りに駆けてきたヤニックをつかまえ、路地裏へ引きずり込んだ。
 怯えた瞳だった。望んだものと違った。昔みたいに自分を頼ってくれない。この期に及んで、ティムはまだヤニックを裏切り者だと言った。だが、本当に裏切ったのは自分自身だと分かっていた。触れるだけのキスをすると、ヤニックが泣き始める。

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