あおにしずむ 番外編10 | ナノ





あおにしずむ 番外編10

 パックが真っ赤な顔をしながら、「ヤニックの奴、ティナを傷つけやがった!」と怒り狂っているのを見た時、ティムは大笑いしそうになった。四人の中でもっとも恋愛事に疎いヤニックが暴力で相手を押さえつけてレイプしたなんて、信じろというほうが無理だ。
「しかも、ティナを置き去りにして、あいつ、あのホモ野郎のトラックでどっか行ったんだぜ?」
 続いたパックの言葉を聞いて、ティムの緩んだ口元が締まる。
「裏切り者だな」
 ウェインが頷きながら、そう言い、パックが同調した。二人の視線を感じて、ティムは頷いた。ティナの件だけなら、別にどうでもよかった。だが、ロビーが絡むなら話は違う。
 教室に入ってきたヤニックは心細いとでも言いたげに、こちらを一瞬だけ見た。授業中は好きにさせた。自分が一言、「やめろ」と言えば、やめるのは知っている。教師に呼ばれて出ていくヤニックを追って、ティムは廊下へ出た。
 成績がよくないくせに遅刻して、おそらく怒られているだろう。とりあえず二人だけになって、週末のことを確認したかった。うしろ姿を見つけて、声をかけようとすると、ヤニックはロビーの後を追って外の階段へ移動していた。ティムは拳を握り締め、そっと二人の様子をうかがう。
 声は聞こえないが、背伸びをしたヤニックがロビーへ抱きついた。抱き締めるだけではなく、励ますように優しく彼の背中をさする。目の前が真っ暗になった。どうして、という言葉が心の中で繰り返される。
 食堂で言いわけしようとするヤニックの声を遠くに感じた。大切にしてきた。いつもヤニックのために、いい友達を演じてきた。それなのに、彼はよりによってロビーを抱き締めた。
 ウェインが中心になって、ヤニックへのいじめを始めた。ティムは何も言わなかった。ロビーと一緒にいるところを見かけたら、ヤニックの携帯電話にメールを送った。返事はなく、教室へ入ってくるヤニックは日に日にうつむいていることが多くなった。ロッカーへのいたずらもひどくなっていく。それでも、ティムは何も言わなかった。

 冬休みの間中、ティムはヤニックから電話やメールがくると信じていた。ウェイン達からのいじめを受けて、助けを求める相手は自分しかいないと思っていた。昔みたいに、「ティム、聞いてくれる?」と言えば、どんな相談にだってのる気だった。それなのに、ヤニックは何度も何度も裏切る。
 冬休み最後の日に、ティムはヤニックの住む団地へ行った。トラックのドアが閉まる音の後、ヤニックが見えた。すぐに隠れると、鉢を抱えたヤニックの頭に、まるで恋人がするように、ロビーがキスを落とした。ヤニックがはにかんだ笑みを見せる。
 自分が待っている間、許してやろうと思っている間、ヤニックはロビーと楽しんでいた。そう考えた瞬間、想像の中で犯していたヤニックの愛らしい姿が泣き叫ぶ顔に変わる。ティムは真っ暗闇の中にいた。自分がいるところまでヤニックを貶めないと気が済まない。
 ウェインに電話をした。実験しよう、と言った。ウェインの耳障りな笑い声が響く。自分のものにならないなら、めちゃくちゃにしてもいい。最初に裏切ったのはヤニックのほうだ。その報いを受けてもらおうと思う。
 間違えているとは考えなかった。いつも待っていたのに、とつぜん現れたロビーの手を取り続けるヤニックが憎かった。

番外編9 番外編11

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