あおにしずむ 番外編9 | ナノ





あおにしずむ 番外編9

 小学生の時は単なる独占欲で済んだ。親友というポジションを与えることで、ヤニックが誰と話していても平気な顔をした。彼が困っている子がいると言えば、興味がなくても彼のために助けた。
 ヤニックが嬉しいと言って笑うから、すごいと褒めてくれるから、優等生を演じた。ティムはそれで満足だった。中学に上がるまでは、ただそれだけでよかった。
 自分がどういうふうにヤニックを好きか気づいたのは十三歳の頃だ。更衣室で着替えるヤニックの白く細い首や背中や腰を見た日、彼の体を何度も見ていたにもかかわらず、その夜、夢精した。
 汚い自分の欲望を知らず、ヤニックはいつも笑みを向けてくれる。四人で卑猥な雑誌を読んでいる時、宣伝のところにあった男同士の雑誌の表紙をウェインが指差した。
 ウェインがそれを馬鹿にするようにからかうと、ヤニックはいつものように、「ウェイン」と諭すような声を出した。
「偏見はよくないよ」
 ウェインは一瞬、冷たい視線でヤニックを睨み、こちらへ視線を送った。こいつ、ウザい、という感情が表れている。ティムは肩をすくませた。
 だが、本当はとても嬉しかった。ヤニックは一般的な話として偏見はよくないと言っただけで、男同士の恋愛を受け入れると言ったわけではない。それでも、まるで彼に自分の気持ちを肯定された気分になる。
 歳上が好きなウェインの趣味の中で、唯一、まともそうな雑誌をヤニックとパックが見ていた。
「おまえ、どんなのが好き?」
 パックの問いかけにヤニックは首を傾げる。
「おまえこそホモなんじゃねぇの?」
「ウェイン」
 ウェインを咎めると、彼はムッとした表情を浮かべた。ヤニックは苦笑しながら、「可愛い子かな……」と口を動かす。
 ヤニックは男にしては愛らしく、その彼が可愛い子と言うのは何だかおかしかった。
「レベル高そうだな」
 パックは雑誌をめくり、こいつはどうだ、と聞いている。その様子を見ながら、ティムも手元の雑誌へ視線を落とした。女性ではなく、宣伝されている小さな表紙へ目がいく。
「へぇ、そっち興味あんの?」
 隣にきたウェインがにやにやと笑った。
「馬鹿、んなわけないだろっ」
「けどさ、いつか実験してみたくねぇ? 同じ男として、男の尻はどうか……」
 ティムはウェインを見つめた。彼は時々、主導権を握ろうとする。見た目の甘い顔だちや女子に対する優しい言葉とは別に、冷酷な部分を持っていた。
 やらないと言えば、弱いと思われそうだ。実験なんて絶対にしたくないが、ティムは軽く頷いた。

 高校に上がってから目障りな人間ができた。ロビーという上級生だ。彼は自身がゲイであることを隠さず、周囲から少し浮いていた。同じ人間を見ているせいか、彼がヤニックを気に入っていることはすぐ分かった。
 ヤニックに何度もあいつと話すな、と忠告しても、ヤニックは聞いてくれない。あげくに、ティムらしくないと言われて、猛烈に腹が立った。
 ヤニックは何も分かっていない。どうして自分が誰からも頼りにされる人間でいるのか、どうして彼の頼みなら何でも聞いているのか、何も知らない。それが非常に不快で、同時に苦しかった。
 たった一言、「おまえが好きだから」と言えたら、ヤニックは受け入れてくれるだろうか。だが、それと引き替えに失うものを考えると、そう簡単に自分が同性愛者だと言えるわけがない。
 ティムは人気者で、デートしたい相手はつきず、同性からも憧憬の眼差しで見られている。ヤニックが誰かと特にロビーと話しているのを見ると、彼を汚して自分のものにしたいと思った。

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