わかばのころ 番外編8 | ナノ





わかばのころ 番外編8

 優の仕事上がりにファーストフード店で待ち合わせをしていた。潮は携帯電話をいじりながら、ポテトを食べる。
「おー」
 優の声に視線を向けると、ハンバーガー単品を持った優が向かいに座った。
「そんだけ?」
「いや、ここ出るだろ?」
 三口でハンバーガーを食べた優は、口を動かしながら、潮の手にある携帯電話を奪う。
「ふーん……潮が絵文字、しかも、髪切って、黒に戻してやがる」
 小さく笑った優が立ち上がり、外へ出ようと促す。彼はケーブルテレビを提供している会社の下請け会社で働いている。現場に直接行き、テレビやインターネットや電話の工事から設置までを行う作業員だ。コバルトブルーの作業着は汗と埃で少し汚れていた。
 優の部屋で食べることになり、結局、近くのコンビニで出来合いのものを買った。彼の部屋には常に誰か出入りしているが、今日は彼だけだった。
「何か浄化されてきた、みたいな顔だなぁ。そんないい子だったんだ? えーと、若葉ちゃん?」
 からあげを食べながら、潮は軽く頷く。
「おーおー、人って変わるんだなって、あれ、おまえファーストピアス、なくした?」
「若葉にやった」
 割箸を落とした優が、長い沈黙の後に叫ぶ。
「マジかよ?」
「マジだよ」
「あれ、大事にしてたくせに」
 だから、若葉にあげたとは言えなかった。そこまで言うのは、のろけるみたいで恥ずかしい。
「へー、そこまで」
 優がうんうんと頷き、麦茶を飲み干す。
「まぁ、若葉ちゃんがこっちに出ない限りは何もないと思うけどな、あいつら、性懲りもなくまた、おまえのこと狙ってるぞ」
「ウザい」
 潮も麦茶を飲み干し、うしろのベッドに背中をあずけた。少し出た腹をさすりながら、若葉があの田舎から出てくる可能性はないに等しいと考える。
「俺達も警戒してる。もし、何かあったら、連絡しろ」
 優はいつもそう言ってくれる。だが、潮はケンカになった時、優へ連絡しない。どこにも所属しない自分が、優に助けを求めれば、それは必然的にどの組織の末端になったのかを意味する。
 優のグループに声をかけている仁和会は情に厚い組織であり、その組織の上がこの地域でいちばん勢力のある市村組であることは知っている。それだけに、安易に優のグループへ関わることはできない。
 潮自身にはそういった組織の人間への偏見はないが、今後、若葉とのことを考えると、これまでのようにうかつな行動はできない。両親からは二流だろうが、三流だろうが、大学は出て欲しいと言われており、中高と好きにさせてくれている分、その願いは受け入れていた。
「若葉ちゃん、こっち来たら、絶対、紹介しろよな」
 帰り際に、優がそう言った。潮は返事をして、暗闇の中を歩き出す。バイブレーションに気づいて、手の中の携帯電話を見ると、若葉からのメールだった。今度、遊びにいった時、会田が同性同士のセックスの方法を教えてくれると書いてある。潮は思わず吹き出して笑った。

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