わかばのころ 番外編7 | ナノ





わかばのころ 番外編7

 二学期が始まり、久しぶりに教室へ入った。同学年に仲のいい友達が一人いるが、残念ながら同じクラスではない。潮はその友達の先輩にあたる二つ歳上の小野原優(オノハラユウ)といちばん仲がよかった。
 夏休みの間の主なメールや電話相手はそのほとんどが優だ。彼は名前とは裏腹になかなか激情型で、ケンカに強く、この周辺の不良達をまとめている。出会ったのは中学生の頃だが、彼のグループに入らないかという誘いを一度断ってから、その話は二度としなかった。
 潮は優のそういうところも気に入っている。彼はすでに卒業して、働いているが、週に三日は会っていた。潮達の住む地域は蓮堂組という組織が裏の社会を仕切り、その末端に潮の高校を始め、たまり場に集まる不良達がいる。
 優のグループは蓮堂組に属していない。中立の立場ではないが、たまり場に集まるどうしようもない連中の相手をしては、むしろ治安を守るような位置づけのグループだった。最近は知らないが、蓮堂組に敵対している仁和会から声がかかっているようで、優は忙しそうだった。
 付き合ってる人間がいることを、優にだけは知らせておいた。他人に興味のないおまえが珍しい、と言われたが、潮はその気持ちに気づいた時、自分でも驚いた。
 若葉のことが好きだ。構ってやらないと、メール相手の友達にすら嫉妬して、全身で自分のことを好きだと伝えてくる若葉から視線を外せなくなった。キスをせがまれた日も、本当はあんな深いキスをするつもりはなかった。
 それなのに、若葉は打算なしに自分の心をくすぐってくる。ウザいと思っていた若葉の弱い部分も、彼の父親から聞いた話で理解できた。知らないおじさんに連れていかれそうになる、という幼い頃の経験から、無意識の行動につながるのだろう。
 十年も待ち望んだ子どものため、両親が甘やかした部分は大きいが、それ以上に、そういった恐怖体験は成長してもずっと覚えているものだ。
 若葉の父親は潮が若葉を傷つけずに若葉からの告白にきちんとこたえたことを感謝していた。息子のカミングアウトにとても動揺していたらしい。だが、愛する息子の好きな人間なら、まず自分が受け入れなければならないと思ったそうだ。
 潮は付き合う可能性はあまりないです、と言ったが、彼は苦笑して、「君は若葉のしつこさを知らないから」と言っていた。そして、「もし、そういう付き合いにならなくても、友達としては一生、付き合ってくれるだろう?」と確認された。
 若葉のほうからこちらに出てくることはまだ難しい。潮はしばらく無理をしてでも、週末の間は若葉のところで過ごそうと考えた。慣れてきたら、若葉がこちらへ来ればいい。少しずつ村の外へ出ることに慣れれば、同じ大学に通える。
 夏休みの短期間に、自分達の心は急速に結びついていた。若葉と違い、感情を直接、言葉にすることが苦手な潮は、それでもずいぶん彼の「好き」にこたえていると思っていた。だが、若葉が自分の上に乗り、無理に挿入しようとした時、彼が泣きながら、「同じ好きを返して欲しい」と言った時、彼の鈍さに気づいた。
 思いを言葉にすることは難しく、結局、「好き」ではなく、「くそ」としか言えない自分が嫌になる。若葉から嫌いになることはないだろうな、と自惚れながら、嫌いになったら教えろと傲慢な言葉を使った。
 受信したメールに返信をしながら、最後に絵文字を入れてやる。若葉はかわいい絵文字が好きなため、わざわざ絵文字のアプリを探した。早く週末になればいい、と思いながら、潮は適当に授業の内容を聞き流した。

番外編6 番外編8

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