わかばのころ 番外編6 | ナノ





わかばのころ 番外編6

 隣で寝息を立てている若葉のやわらかい髪をなで、潮は携帯電話で写真を撮った。会えなかった間、ずっと届いていた「おやすみ」メールを眺めて、込み上がる気持ちをキスにする。

 夏休み前にあった面倒な暴行事件は、はっきり言って潮だけの責任ではなかった。潮にはそれなりに友達もいて、自分としては孤高な男を気取っているわけではない。それを周囲が勝手に勘違いして、勝負しろだの、生意気だのと言い出した。
 父親の知り合いである石橋から、外野がうるさいなら、牧のいる田舎に引き下がったらどうか、と提案され、すぐに頷いたのには理由がある。牧がケンカに強く、情に厚い、仲間をとても大事にする人間だと何度も聞かされていたからだ。
 車で三時間、ずいぶん田舎だから遊ぶところもないと言われた。潮は飽きたらすぐに帰ると両親に伝えた。両親は自分が理由もなく暴力を振るう人間ではないと信じてくれている。高校のレベルも成績も低いが、彼らはいつも自分の味方でいる。学校の教師は嫌いだが、両親や周囲の大人達は信用していた。
 よく家庭環境のせいでぐれてしまう、と言う人間もいるが、家庭環境だけを見れば、潮は恵まれている。金に困っているわけでもなかった。おそらくそういう面も妬む理由になるのだろう。
 潮は初めて会った牧と会田に好感を持ち、夏休みいっぱいは『むすび』で暮らすことを決めた。料理はおいしいし、なかなか可愛い女の子もいる。目の前で大口を開けてピザを頬張る若葉を見て、潮はそんなことを考えていた。
 若葉が同性だったことには少しがっかりした。不思議なことに同じ男だと分かってしまうと、なんだかんだで邪険にしてしまう。注意力散漫でよくつまずくところも、すぐ泣くところも男だと思うといらいらした。
 トイレに閉じこもって泣き続ける若葉を放って帰らなかったのは、周囲の大人達の不興を買いたくなかったのと、これまでたまり場で歳下の少年達の面倒を見てきたからだった。潮には兄弟はなく、たまり場にいる歳下の彼らの相手をしては、弟がいてもよかったのに、と思っていた。
 潮はバスに揺られながら、肩に頭をあずけてくる若葉を見て、弟と思うとかわいいと考えた。彼の左手が無意識に服の裾をつかむ。その小さな手に視線を落として、潮はいらいらとした気持ちが消えるのを感じた。

 若葉が自分のことを好きかもしれない、と気づいたのは、彼の大きな瞳がこちらを凝視している時だ。同性から寄せられる凝視なんて、睨む時にしか考えられない。だが、彼の寄越す視線は睨むというより、女子のそれに近かった。
 感情を隠せないのは若葉らしいと思う。しかも、男同士なのに、彼はそれすら問題としてとらえていない。きらきらした瞳でこちらを見上げ、「うーちゃん」と呼ばれることに悪い気はしなかった。
「今、怒ってるからね」
 丸い頬を擦りながら、怒った表情を見せる若葉に、潮は謝った。手を握ると、おそらく本人は悟られないように笑みを浮かべているつもりなのだろう。すぐにばれてしまう満面の笑みを浮かべていた。
 可愛いな、と思ったのは秘密だ。潮は手を引いてくれる若葉の頭を見つめながら、思わずほほ笑んだ。

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