わかばのころ 番外編3
『むすび』で大好きな料理と大きなケーキを頬張った若葉は、抱えきれないプレゼントの山をトランクケースに入れた。
「あー、もう食べられない」
お腹をさすりながら言うと、笑われた。おやすみ、と会田に声をかけられ、若葉は頭を下げて礼を言い、車に乗り込む。
「若葉、寝る前に歯磨きくらいはしなさいよ」
母親の言葉で目を開き、手を握る大きな手に気づき、潮を見上げる。
「うううん、俺、お風呂も入る」
家に帰った後、プレゼントを運び、家族でお茶を飲んだ。小さい頃は誕生日会を開いて、学校の友達を呼んだが、今は毎年『むすび』で祝って家でゆっくり過ごしている。
学校の友達からは昨日、お菓子をもらっていた。女子からは特に手作りのケーキやクッキーをもらい、顔をほころばせた若葉に潮がむっとしていた。
若葉はそのことを思い出し、かすかに笑う。潮の誕生日は七月で、夏休みに入る前だから、きっと彼もケーキやプレゼントをもらうことになるだろう。受け取らないと言ったら、自分が代わりにもらおうとひそかに思っている。
眠気が覚め、風呂に入る準備をしていると、ノックの後、洗面所の扉が開いた。
「……洗浄のやり方、分かるか?」
潮の硬い声に、若葉は彼も緊張しているのだと分かった。
「うん。大丈夫。ちゃんときれいにする。あ、これ、持って上がってて」
バスタオルを一枚渡す。潮は扉を閉めようとしたが、すぐに開けて、額にキスをしてくれた。
若葉は額にそっと触れ、浴室へ入る。会田からシャワーを使って洗浄する方法を聞いていた。若葉は髪と体を洗った後、教えられた通りに洗浄を始める。
「おやすみー」
Tシャツを着て、居間へ顔を出した若葉は、冷蔵庫からペットボトルのジュースを手にした。
「お腹、出して寝ちゃダメよ」
「はーい」
階段を上がると、潮が部屋で布団を敷いていた。渡していたバスタオルを重ね、タンスの奥へ手を伸ばしている。
「うーちゃん」
振り返った潮の手にはコンドームと潤滑ジェルがあった。
「俺もすぐシャワー浴びてくる」
潮は枕の下にすべてを隠すと、階段を下りていった。ジュースを飲み、枕の下に隠されたものを手にする。
恐怖はないが落ち着かない。とても痛かったらどうしようと思う。潮のためになら、痛くても我慢できるはずだ。そう思うのに、思い描くのは手足を押さえつけた複数の手だった。
「若葉」
シャワーを浴びてきた潮がうしろから抱き締める。
「別に今日じゃなくてもいいんだぞ?」
潮は若葉の手からコンドームやジェルを引き取る。固まってしまった体を動かして、若葉は何とか笑みを見せた。
「今日がいい」
潮の姿を見たら、心が落ち着いた。抱き締め返すと、ボディソープのさわやかな香りが立ち上がる。
「うーちゃん……うーちゃんのものにして。うーちゃんだけの特別になりたい」
潮は立ち上がり、扉が閉まっているか確認した。電気を消して勉強机の上にある電気スタンドをつけてくれる。
「怖くなったら、すぐ言え」
頷くと、潮は障子窓を閉めた。若葉はそっとバスタオルの上に寝転ぶと、身につけたばかりの服や下着を脱いだ。 |