わかばのころ 番外編2 | ナノ





わかばのころ 番外編2

 目の前のオレンジジュースを飲んでいると、「お待たせ」と会田が向かいに座った。『むすび』は休みで、店内には自分達しかいない。潮は牧とともに二階へ上がっていた。
 若葉は知らなかったが、牧と会田は恋人同士らしい。ずっと仲のいい親友だと思っていた若葉は、その話を潮から聞いた。父親も知っていて、だから、若葉の話を会田にしていたらしい。二人が恋人同士というのは、とても納得できる。同時に羨ましい。
「聞いてる、若葉?」
 以前から約束していた、セックスの準備についてを教えてもらっていた。若葉は頷き、「大丈夫!」と笑う。
「まぁ、その時がきたら、潮君がリードしてくれるんじゃないかな」
 会田はそう言って、天井を見上げる。
「ねぇ、慎也おじさん」
 若葉は少し緊張しながら、呼びかける。一通りの説明を聞き、リラックスすればいいと言われたが、これまでの経験からそれは痛いことだという認識がある。
「あのね……ほんとに気持ちよくなるの?」
 会田はおそらく異物を入れられたことも聞いているだろう。彼は若葉の隣へ座り直し、肩を抱いてくれる。
「なるって断言はできない。でも、好きな人と体をつなげるのは心地いいことだと思う」
 会田の言い方に引っかかりを感じて、若葉は思いつくまま問い返す。
「慎也おじさんは要司おじさん以外としたことあるの?」
 肩を抱く手の力が緩み、若葉は会田を見た。悲しそうに光る瞳に、自分は聞いてはいけないことを聞いたのだと確信する。
「あるよ。だから、要司さんを受け入れるまで、とても時間がかかったんだ。でも、彼は待ってくれた……」
 若葉は会田の悲しみを和らげようと、つい、「俺も」と言った。
「でも、うーちゃんは受け入れてくれた」
 会田が知的な視線でこちらを見つめる。
「それって……」
 若葉は口元へ手を当てた。
「慎也おじさん、待って、お父さん達に言わないで。俺、うーちゃんにしか話してない。お父さん達には知られたくない。お願いだから、言わないで」
 会田の空いている左手を握り、若葉は懇願する。彼は一度、目を閉じてまぶたを押さえた。
「若葉……怖かっただろう? 夢を見たりしない?」
 若葉は大きく首を横に振る。
「うーちゃんがいるから平気」
 会田の手が肩をさすってくれる。
「よく頑張ったね。潮君の協力もあったと思うけど、若葉はとっても芯が強いよ」
 尊敬する相手から褒められて嬉しいのに、若葉は目に涙を溜めた。あふれそうなそれを、会田が指先で拭ってくれる。
「奥村さんには俺から何とか言うから、今度、一緒に病院へ行こうか?」
 若葉はぎゅっと拳を握る。
「あの人達、コンドーム、つけてた」
 性病のことはほんの少し心配していた。
「つけていても、これからの若葉と潮君のために検査をするほうがいい」
 会田を見ると、彼は優しい笑みを浮かべてくれる。
「心配いらない。俺が通ってるところに連れてってあげる。潮君も一緒に検査すれば、お互いに安心だろう?」
 若葉は喉から込み上げてくる嗚咽を漏らし、会田へ抱き着いた。本当はとても怖かった。潮に話して受け入れてもらえても、事件とは別のところで心が疲労していた。
 セックス一つとっても、何をどうすればいいのか分からなかった。身近にこんなにも心強い大人がいたことを、若葉は素直に嬉しいと思った。
「お、慎也、浮気か?」
 階段を下りてきた牧がからかう。
「若い子のほうがいいですからね」
 会田がこたえると皆が笑った。若葉は優しく穏やかな日々に安堵し、会田の服の裾を引いて、空腹を告げた。
「おまえは変わらないなぁ」
 潮の言葉に若葉は頷く。変わりたくないから、変わらないのだと、心の中でつぶやいた。

番外編1 番外編3(初エッチ編/若葉視点)

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