わかばのころ 番外編1 | ナノ





わかばのころ 番外編1

 最初の授業が終わった後、潮はすぐに囲まれた。女子だけではなく男子からも質問を受ける。こたえるのが面倒だと思いながらも、若葉のために笑顔を見せたほうがいいかと考えている時だった。
「うーちゃん!」
 潮が通っていた前の高校では、下級生が上級生のクラスに入ってくることは許されなかった。若葉の声を聞いて立ち上がる。
 若葉は胸の下あたりに腕を回して、潮に抱きついた。父親に言うくらい素直な若葉のことだから、学校でも隠さないだろうと思っていた。予想通りで、潮は笑みを浮かべて若葉を抱き締め返す。
「若葉の教室はどこだ? 次の休み時間は俺が会いにいってやる」
 素早く走らせた視線で、周囲の反応をうかがう。驚き半分、呆れ半分という感じだった。生徒数が少ないから、もし若葉を傷つけるような人間がいたら、すぐに分かるだろう。潮は若葉の髪にキスを落とすように、頬擦りをした。

 はっきりとした質問を投げかける人間はいないが、三学期に入ると、さすがに不躾な視線を送る人間達がいた。噂というのは恐ろしいもので、若葉と同じ方角へ帰り、同じ弁当を持ってくる潮には様々な憶測が飛んでいた。
「うーちゃん!」
 ぴょんぴょんと跳ねるように走ってくる若葉が転びそうになる。潮は少し歩幅を大きくして、転びそうな若葉を支えた。腕の中で小さく笑う若葉を見ていると、いらいらする気持ちがおさまる。ふざけているのか、ぐっと力を込めて胸に額を押しつけてくる若葉がかわいらしくてしかたない。
 潮は若葉の髪に触れる。川遊びや田植えで紫外線を浴びることが多いせいか、彼の髪は軽く染めたように茶色い。昔、といってもこの一年以内の話だが、潮の恋愛対象は異性だけだった。初めて若葉を見た時も、女の子らしくないと思ったくらいだ。
 ただ、これまで周囲にいた恋愛対象があまりにも女性の部分を押し出してきたため、大口を開けて食べたり、うっとうしい媚びを売らないところは好感が持てた。
 若葉が男だと分かってからは、女々しくてウザいと思うこともあったものの、結局、振り回されている。そして、潮は若葉に振り回される自分が嫌ではなかった。
 全力でまっすぐに来る若葉から目が離せない。あの暴行事件の後も若葉はいつも自分を見上げてくれる。若葉を覆うように抱き締めながら、潮は周りへのけん制を忘れなかった。若葉は女子からは好かれており、男子の一部から敬遠されている。おそらく鈍くさいところが嫌がられているのだろう。
 潮は無愛想で、たいていの場合、睨むか目を閉じているかだ。それがカッコイイといつも女子から騒がれた。だが、それはもう過去の話だ。潮が若葉にだけ見せる表情を知った生徒達は、その笑みとともに絡む指先を見て諦める。

 潮は窓から外を眺める若葉を見ながら、鞄の中を探った。目当てのものを見つけて、若葉の肩を軽く突く。
「あー! いつ買ったの?」
 若葉はしゃりしゃりとした歯ごたえのものが好きで、最近、発売されたスティック状のお菓子を差し出すと、目を輝かせた。
「おまえがトイレ、行った時」
 ふたを開けてやり、餌づけするように中から一本、若葉の口元へ持っていく。
「ん、むぅい」
 口をもごもごと動かしながら、若葉は笑みを見せた。
「うまいのか?」
「うん、チョコと塩の微妙なバランス」
 もう一本、と食べ始める若葉に、潮は幸せな気持ちになる。少しずつ体重を戻した若葉は、丸い頬を緩ませた。おいしそうに食べるため、潮も食べたが、それはただ甘くしょっぱいだけだった。
「ほら」
 食べ差しを若葉の口へ入れたところで、大きくせき込む音が聞こえた。
「瀬田君、本鈴、終わったから、そろそろ教室へ戻ろうか?」
 教壇に立つ老齢の教師と教室中の視線が集まる。
「うーちゃん、またあとでね」
 若葉は殊勝なことを言いながらも、しっかりと潮の手にあるお菓子を見ている。五時間目の休み時間は、おそらく若葉から来るだろう。餌づけ成功だと思いながら、潮は笑いを噛み殺した。

48 番外編2(若葉視点)

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