わかばのころ47 | ナノ





わかばのころ47

 この子は本当に甘えんぼうね、という母親の声に続き、よっぽど潮君が好きなんだよ、と父親の声が聞こえた。若葉は潮の体へ触れながら、つかめる場所をつかむ。服の裾だったら、怒られるかもしれないと考えたが、潮は怒ることなく、背中に温かい手が回った。
 自分を愛してくれる人間だけの世界に、潮も来てくれた。若葉は嬉しくて、ずっとこのままでいいと思う。布団に寝かされた感覚に目を開けると、潮が毛布とかけ布団をかけようとしていた。
「うーちゃん」
 小さな声で呼ぶと、潮が手を止めずに布団をかけてくれる。
「勉強する時、あっちの部屋、行ってもいいけど、寝る時はこっちに来て」
 潮は頷いて、隣に寝転んだ。
「分かってる。一人にしないって言っただろ」
 髪をなでられて、若葉は目を閉じる。やわらかいキスが何度も落ちてきた。胸の奥でふたをしたはずの記憶が白いもやとなってあふれる。若葉は彼の手を探した。
「どうした?」
 若葉の手を握り返した潮が、空いている手で布団の上をぽんぽんと叩いてくれる。
「うーちゃんは俺のこと好きって言ってくれた」
「あぁ」
 潮の手がかけ布団の下で若葉の手を握る。
「好きだ」
 額にキスされて、若葉は涙をこぼす。潮はすべて知っても、好きだと言ってくれるのだろうか。それとも、本当はもうすべて知っているのだろうか。
 若葉はかすかに嗚咽を漏らした。すべて知っているなら、潮はあの時に助けてくれただろう。
「若葉?」
 潮の指が優しく髪をすいた。にじむ照明を見ながら、若葉は小さく口を開く。
「お、おれが、に、された、かっ……てる?」
 潮が眉をひそめた。暴行事件のことは意図的に話題にはしていなかった。
「若葉、無理に話さなくていい」
 言外に、どんなことがあったとしても、変わらないという意思が見えた。若葉は布団の上に座り直す。
「……ビールの瓶だけじゃ、なかった」
 震える拳を握り締めると、潮の瞳が燃えた。
「何?」
 若葉の発した言葉を考えるように、潮はくちびるを結ぶ。だが、その姿は泣いているようにしか見えなかった。
「暗くて、覚えてないけど、二人くらい、俺のこと……ほんとは」
 言葉に詰まったのは、こちらを見た潮の泣き顔があまりにも痛々しいからだった。怒りと悲しみを混ぜた絶望の色が潮を囲む。若葉は潮にだけは嘘をつきたくなかった。
「ほんとは、うーちゃんが初めてで、うーちゃんとだけしたいって思ってた。でも、俺、後悔してないよ。うーちゃんのこと大好きだから、何でもできるし、何でも我慢する。だから……」
 まだ好きでいていいか、と尋ねる前に、キスが降る。若葉は熱い舌に翻弄されながらも、しっかりと潮の手を握り締める。
 潮の涙が頬へ落ちてきた。その涙は若葉の涙と交わり、こぼれ落ちていく。彼が腕を引き、背中へ手を回した。彼の足の間で抱き締められる。
「っくそ! ちくしょうっ!」
 押し殺した嗚咽が若葉の耳の奥から心へ届く。自分だけが苦しいわけではなかった。潮もまた一緒に苦しんでくれる。
 若葉は両親がしてくれたように、潮の背中をなでた。そのまま一つの布団の上で、体を重ねるようにして眠る。若葉は小さく荒い呼吸を繰り返す潮の髪に触れ、眠りに落ちるまでなで続けた。

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