わかばのころ46 | ナノ





わかばのころ46

「この一ヶ月、電源、入れてなかったんだ。おまえからのメールに気づいたのは、三日くらい前」
 片手で器用に操作した潮が、若葉からのメールを確認する。その表情が緩み、若葉の手を一度離すと、うしろから抱き込むように彼が移動した。
「若葉……」
 うしろから頬擦りするように、ぎゅっと抱き締められる。くちびる同士が触れ合うと、若葉は拳を握った。体をひねり、久しぶりのキスを受け入れる。
 キスは優しく、潮がまだ自分を好きだと実感することができた。少しだけ舌を絡ませた後、潮は若葉を抱き締めたまま目を閉じる。若葉も自分の胸にある彼の大きな手に触れ、目を閉じた。
 潮と一緒なら電車に乗って、高校へ行くことくらい何でもない。学年は異なるが、生徒数が少なく、授業以外はほとんど潮と一緒にいられるだろう。家に住むことを許してくれた家族を始め、彼の両親にも感謝しなければならない。
 もしかすると、自分の今の状態を見かねて、両親が頼んだのかもしれない。謝罪の代わりに若葉のそばにいることを強制したのかもしれない。だが、理由や経緯はどうあれ、若葉にとっては潮がずっと一緒にいてくれることが大事だった。
「うーちゃん、俺のこと、好き?」
 目を閉じたまま、若葉が尋ねると、潮が若葉の手を握ってくれる。
「……あぁ、好きだ」
 若葉は振り返り、潮の黒い瞳を見つめる。切れ長の目尻が優しく下がった。自ら口づけると、潮がもう一度、キスをしてくれる。胸の中に広がる安堵と同時に、押し込めている忘れたい記憶にふたをした。

 道の駅で取り扱ってもらっている野菜と米の荷降ろし作業を手伝った若葉と潮は、祖父の友人達の手伝いも積極的にした。夕飯は『むすび』に集合して食べることになっており、それまでの時間は自由にしていいと言われた。
 若葉は潮とともに道の駅の近くにある家電量販店へ移動した。ちょうど新しいゲームソフトが出ており、ともに両親から小遣いをもらっていた二人は半分ずつ出し合って購入した。
「若葉、あんまりゲームするイメージないな」
 袋に入っているゲームのパッケージを眺めていると、潮が苦笑する。彼の言う通り、若葉はあまりゲームで遊ぶことはない。
「うん、でも、うーちゃんと遊べるならしたいなって思ったの」
 潮は、「そっか」と素っ気ない返事をしたが、耳まで赤くなっていた。若葉はそれには気づかず、おもちゃ売り場を一通り見て回る。携帯電話の音が響き、若葉が出ると、父親が迎えにきたと言った。
 日曜の夜なのに、自分の隣で父親と話をしている潮を見ると、彼がこれから本当に自分の家で暮らすのだと分かる。潮は来年、受験生になるため、二階の空いている部屋を使ったらどうかと話していた。
 会田と牧が円形のテーブルへ料理を並べてくれる。若葉はサラダ、パスタ、ピザを見て、瞳を輝かせた。
「うわぁ」
 食事を前にした若葉のいつも通りの反応に、皆が笑みを見せる。
「いただきます」
 ボロネーゼを食べていると、潮がフォークを置いて、テーブルの上にあるペーパーナプキンを一枚取り、若葉の頬を拭いてくれる。その様子を見ていた祖母が、「兄弟みたいに仲がいい」と笑った。若葉は頷いて、潮を見上げる。彼も小さく笑った。
「ピザ、取ってやる。どれがいい?」
 会田が焼いてくれた若葉の好物のピザを見ると、すぐに潮が皿へ置いてくれた。若葉はとても気分がよく、たくさん食べた後、昨日のように潮の肩へ寄りかかった。

45 47

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -