わかばのころ45 | ナノ





わかばのころ45

 体が動いたため、若葉は目を開いた。潮が起き上がり、大きく伸びをしている。
「おはよう」
 潮に声をかけると、彼が振り返った。昨日は申し訳なさそうな困惑顔しか見ていないが、今朝はかすかにほほ笑んでくれる。
「おはよう、若葉。よく眠れたか? 痛いところ、ないか?」
「うん」
 目覚まし時計代わりの携帯電話を見ると、まだ八時前だった。若葉も起き上がり、障子窓を開ける。タンスの前に大きなリュックサックとスポーツバッグが置いてあった。潮は若葉の布団も上げると、バッグの中からジーンズ、シャツ、パーカーを取り出した。大きさからして、数日分の着替えが入っているようだ。
「うーちゃん」
 若葉は少し期待を込めて尋ねる。
「ここにいてくれるの?」
 潮がTシャツを脱ぎ、服を着替えながらこたえる。
「あぁ。おまえ、寝てたからな。あとで話す。こっち来い」
 青いパーカーを着た潮の腕の中にとらえられると、彼が頬にキスをくれた。
「助けられなくて、ごめん。もう絶対一人にしない」
「うーちゃん」
 若葉は嬉しくて、潮のことを抱き締め返しながら涙ぐむ。よかった、と思い、しばらく彼の胸の中で目を閉じる。
「まずは顔洗って歯磨きだな。昨日、昼から寝てたから、腹、減ってるんじゃないのか?」
「うん」
 二人で階下へ行き、洗面所で顔と歯を洗った。居間では祖父母と両親が、朝のテレビ番組を見ている。
「おはよう」
「あら、若葉。おはよう。よく眠れた?」
 若葉は笑みを見せる。満面の笑みを見せるのは、あの日以来、初めてだった。家族が一様に安堵の表情を見せた時、若葉はうしろにいる潮を振り返った。潮は朝のあいさつをして、若葉の背中を軽く押し、こたつへ入って座るように促す。
「お腹、空いてるだろ」
 父親が言うと、母親がすぐに用意を始める。こたつテーブルの上に焼き上がったばかりのシャケとホウレンソウと豚肉の炒め物が並ぶ。若葉は潮とともに朝食をとった。少しテレビの音量を落とした父親が、「食べながらでいいから」と話を始める。
「潮君から聞いたかもしれないが、彼は今日からここに住む。一週間後、北稜へ転校する予定だ。若葉、潮君と一緒なら、学校へ通えるか?」
 口を動かしていた若葉は父親と潮のことを交互に見た。
「ほんと? うーちゃん、ほんとに俺と一緒に通うの?」
 潮が頷き、箸を置いて指先で若葉の頬へ触れた。米粒がついていたようで、それを取ってくれる。
「あぁ、転校することになった……色々あって、今回の事件でもおまえのこと、巻き込んだ意味では、俺は加害者側になる」
「そんな……」
「謝って済むことじゃないけど、そばにいさせてくれ」
 若葉が泣くと、潮はすぐにティッシュを渡してくれた。昨日、潮が両親と来ていたのは、これまでの謝罪と今後のことを含めた話し合いだった。泣きながら朝食を終え、祖父と約束している道の駅へ行く昼まで、若葉は潮とムウを連れて散歩へ出た。
 源流部へ着いても、潮はずっと手をつないでいてくれる。若葉は何度も彼の顔に手を伸ばし、彼の存在を確認した。彼も若葉の頬に触れ、首から下げている革紐を引っ張る。
「やせたな」
 若葉は首を横に振る。
「おじさん達から聞いた。全然、食べてないし、夜も寝てないって」
「うーちゃんから、メールの返事がくるかもって思ったら、寝れなくて」
 潮は小さく息を吐くと、ポケットの中から携帯電話を取り出す。

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