わかばのころ44 | ナノ





わかばのころ44

 今日は少し眠れそうだ、と居間のこたつに入り込んだ若葉は目を閉じる。昼食を終えた家族も一緒にテレビを見ていた。祖父から明日、調子がよければ、道の駅へ行こうと言われた。返事はあいまいにしたが、若葉はきっと道の駅へ行かないだろうと思う。
「ちょっと寒いわね。暖房、入れようか?」
「そうだな」
 以前はこたつで寝ると、風邪を引くと怒られた。祖母が編み物をする手をとめて、若葉の髪をなでてくれる。
「あら」
 母親の声にうっすら目を開けると、エンジン音が聞こえる。牧達かと思い、目を閉じると、「瀬田さん達だわ」と聞こえた。若葉は起き上がり、こたつから這い出る。玄関まで行くのがもどかしく、縁側を開けて、外へ飛び出した。
 戸惑う瞳をこちらに向けている潮を見つけて、若葉は靴下のまま地面を蹴り、彼のほうへ駆ける。つまずいて転びそうになると、彼が腕を広げて支えてくれた。
「うーちゃんっ」
 抱きついたまま、潮の胸に顔を埋め、その熱やにおいを感じるようにかすかに首を動かす。
「若葉……ごめんな」
 ぶんぶんと首を振ると、潮の大きな手が背中に回った。会いにきてくれないことを不安に思ったが、彼が元気でいる姿を見たら、そんな不安はどうでもよくなる。若葉は止まらない涙を自分の手で拭きながら、ずっと彼に抱きついていた。
「寒いから、中に入りなさい」
 母親の声に潮が、「行こう」と声をかける。
 若葉は居間に入り、潮の隣に寄りかかるようにして座った。うかがうように彼を見上げ、伸ばした手を彼の手へ絡める。彼は苦笑しただけだった。若葉の両親は知っているが、潮の両親が知っているかどうか分からない。彼の両親を見ると、若葉の家族を向き合い、軽く頭を下げていた。
「うーちゃん」
 若葉は潮に手を伸ばし、彼の顔へ触れる。姿がここにあることを確かめるように触れた後、心の底から安堵した若葉は、彼の肩へ頭をあずけた。
「潮、こっちに来なさい」
 潮の父親が潮を呼ぶと、若葉の父親が眠っている若葉を見て、潮に、「そのままで」と告げる。
「こっちに戻ってから、若葉は夜、眠れないみたいでね。潮君、どうかそのまま、寝かせてやってくれないか?」
 遠くで父親の声を聞き、若葉は、「さむい」とつぶやいた。すぐに温かい手が背中へ回り、温かくなる。潮が眠っている間にいなくならないよう、若葉は彼の手をしっかりと握った。

 目が覚めた時、潮が会いにきた夢を見たのだと思い、とても慌てた。だが、すぐに慣れた寝床の中がいつも以上に温かいことに気づく。つながった左手の先には大きな手があった。
「うーちゃ……」
 潮は寝息を立てて眠っている。あふれる涙を枕に吸わせながら、若葉は潮の頬に触れた。ヒゲを剃ったようだが、手触りはざらざらしていて、若葉は少しだけ笑った。そっと布団から抜けて、いつかのように彼の頬へキスをする。
 若葉は手を握ったまま、潮の布団へ入った。
「う……ん、わかば?」
「うん」
 潮は左手で毛布とかけ布団を探り、背中が出ている若葉へもかけてくれる。
「大丈夫か?」
 怖い夢でも見たと思ったのか、潮が覚醒しようと起き上がる。若葉はそれを制して、「大丈夫。まだ眠たいけど、寒かったから」と言った。潮は目を閉じて頷き、抱き締めてくれた。

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