わかばのころ41 | ナノ





わかばのころ41

 潮もまだ入院中であり、すぐに会いにくることはできない。若葉は気持ちだけは元気で、それなら自分が潮のところへ行きたいとわがままを言った。だが、骨折は免れたものの、まだ立つことができない若葉を病室の外へ連れ出してくれるはずがなかった。
 担当医師からは、あと一週間ほど様子を見てから、転院してもいいと言われていた。若葉は本当は転院したくなかった。相馬の病院へ戻れば、潮との距離がどんどん離れていく。毎日、ここまで車で見舞いにきてくれる両親には悪いが、若葉は潮に会うまでは市内に留まりたいと思っていた。
 牧と会田も三度、見舞いにきて、潮の両親には聞けずにいたことを話してくれた。潮が夏休みだけ、『むすび』にあずけられたのは、一学期に巻き込まれた暴行事件が原因だった。潮自身、素行はあまりよくなく、通っている高校には潮と同じく不良達のたまり場に出入りする生徒が多いらしい。
 今回、潮と若葉を暴行をしたのは、そのたまり場の別の高校の生徒と卒業生だった。潮はたまり場へ顔を出すものの、どのグループにも属さず、同年代に比べると大人びていた。
 冷静な上、ケンカが強いためか、上の人間から好かれる潮が気に入らない、と彼らは潮が中学三年の頃から、何かと潮に突っかかっていたらしい。それが、一学期に爆発し、潮は高校まで乗り込んできた彼らと乱闘になった。
 潮は夏休みに入る一週間前から停学処分を受けた。潮から何か起こしたわけではないが、ケンカに強い彼が、乗り込んできた全員にひざをつかせたため、傍から見れば、彼が悪者に見えたのかもしれない。
 潮は特に報復も恐れず、停学になっても、ふらふらと街へ出ていたが、心配した両親が、牧が働いていた職場の後輩である石橋へ相談した。牧も昔、絡まれることが多かったため、潮の状況をどうにか変えたいと思い、彼をあずかることにしたらしい。
 牧も会田も、潮は若葉と行動するようになってから、ずいぶん変わったと言っていた。それは潮の両親からも言われており、とても感謝されていた。
 自分が潮を変えたとは思えないが、若葉はまだ彼のことが好きだった。若葉は窓から見える景色を見つめる。意識が戻り、五日が経過していた。若葉は首にある革紐を引っ張り、リングピアスへ触れる。意識を取り戻した時はなくなっていたが、翌日、母親がつけてくれた。
「……うーちゃん」
 会いたい、と思うと涙が出てくる。
 今日は両親と医師の立会いのもとで、警察からの事情聴取を受けることになっていた。できればその前に潮に会いたかった。先に意識を取り戻していた潮の証言により、あの日、潮と若葉に暴行を加えた青年達はつかまっていた。
 若葉はあの日を思い出すことじたいに恐怖を感じ、加害者の青年達の親から謝罪の申し入れがあったが、若葉はもちろん、両親も受け入れなかった。一人ぼっちの病室で心細い思いをしていると、ノックの後に扉が開いた。
「奥村若葉君?」
 入ってきた男が警察関係者であるのは、見た目と雰囲気で分かる。男はドラマで見る熱血タイプでも渋いタイプでもなかった。
「こういう者です」
 男はやはり警察の人間だった。こちらを見てくる瞳に、何となく冷たさを感じて、若葉は扉のほうを見た。
「あの、まだ、お父さん達、来てないです。先生も、まだ」
「あー、簡単な確認だけ。すぐ終わる。えーと」

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