わかばのころ39 | ナノ





わかばのころ39

 男達は潮がゲイなら、これをケツに突っ込もうと言い、空のビール瓶を持ってきた。若葉が泣きながらやめるように懇願すると、「おまえが代わりに?」と軽い口調で聞かれた。
 若葉は男が投げつけた携帯電話を探しに、四つ這いになって隅のほうへ移動した。男達が何人いたのか覚えていない。仰向けにされ、手足をそれぞれ押さえつけられた後、悲鳴を漏らさないようにと口もふさがれた。その瞬間を思い出しそうになった若葉は頭を大きく振る。手を伸ばした先に電池パックを見つけて、引き寄せた。
 その部位に触れることが嫌で、若葉は足の間から流れる血を見なかった。電池パックが落ちていた周辺で手を動かし、欠けている携帯電話本体を見つける。立ち上がることを祈りながら、若葉は電源を入れた。心配している両親や牧達からもメールと着信があった。若葉は嗚咽を漏らす。家に帰りたい。外の世界は怖いことばかりだ。
 だが、ここへ来なければ潮のことを守れなかっただろう。若葉は潮の携帯電話も見つけて、それを持って彼の元へ戻る。
「うー、うーちゃ、ん」
 もう大丈夫、助けを呼ぶからね、と心の中で続けて、若葉は携帯電話を操作する。電池が切れかけている若葉の携帯電話では心もとなく、潮の携帯電話から牧へ連絡をした。ワンコールで出た牧に、若葉は泣きながら、潮が死んでしまう、救急車を呼んでと告げる。どこにいるのかと言われ、若葉は自分の携帯電話から住所だけが書かれたメールを転送した。
「若葉、おまえは大丈夫なのか?」
 牧は慌てた様子で会田へ車を出せと言い、若葉の身を案じた。若葉は目を開けてくれない潮の頬をなでながら、「うん」と頷いた。電話を切ると、若葉の携帯電話の画面は消えており、潮の携帯電話が震え始める。
「若葉!」
 父親の声に若葉は大泣きした。
「大丈夫なのか?」
 言葉が出てこない若葉に父親が声をかける。
「今、皆でそっちに向かってる。救急車が先に着く。潮君について、おまえも一緒に病院へ行くんだ。いいね?」
「うん……おとうさ、おれ、うーちゃんがすきで、だから、まもりたかったのに、もし、うーちゃん、しんだら、おれのせい、おれの……」
「若葉、潮君は大丈夫だ。おまえはケガしてないのか?」
「……うん、だいじょうぶ」
 なるべく温かくして待っていなさい、と言われ、若葉は下着と制服のズボンを身につけた。潮の体に抱きつき、目を閉じる。すぐに意識が遠くなるため、若葉は目を開けて、救急車のサイレンが聞こえるのを待った。
 半地下になっているここまで、救急隊員が見つけてくれるか分からない。音が聞こえてから、若葉は潮から離れ、階段を必死に上がった。
「大丈夫ですか!」
 入ってきた救急隊員が若葉を見つけて、すぐに毛布をかけてくれる。若葉はあふれる涙もそのままに、「したにうーちゃんがいるの。うーちゃんをさきにたすけてください」と頼んだ。
「奥村若葉君でいいかな?」
 連絡をした時点で名前を伝えていたのだろう。救急隊員の一人が、若葉の腫れた顔の傷へそっと指先を伸ばした。手足と口を押さえられた後に生じた恐怖を思い出し、若葉は大きくうしろへのけぞり、ほこりを被ったテーブルと椅子へぶつかる。担架に乗せられた潮が目の前を通った。
「うーちゃん!」
 若葉は立ち上がり、彼の後を追いかけようとした。だが、急に足の力が抜けて、目の前が真っ暗になる。
「うーちゃん」
 倒れそうになった若葉を救急隊員が抱えた。彼が大声で、「ケガ人は二名だ! この子、出血が多い。担架、早く!」と叫んだ。

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