わかばのころ37 | ナノ





わかばのころ37

 家への電話をためらったのはとても心配性な母親に不要な心配をさせたくないと、一瞬考えたからだ。潮の状況が分からないまま、ここまで来たが、電話を入れれば間違いなく帰るように言われる。あるいは迎えにくるかもしれない。潮の家の住所までは知らず、若葉は駅で立ちつくした。
 相馬の無人駅と異なり、人の往来が激しい。財布には片道分しかなく、帰りは潮の両親へ相談するか、やはり家へ電話しなければならない。若葉は急に心細くなり、家へ電話を入れようと決めた。牧達から潮の両親に連絡を取ってもらったら、今の潮の状況が分かるかもしれない。
 発信しようとした時、携帯電話が震えた。潮からのメールだった。住所だけが入力されているメールを見て、若葉は近くの案内図へ近づいた。迷子になりやすい若葉にはさっぱり分からない。潮の番号を呼び出して電話をかけると、今度は数コールの後につながった。
「もしもし? うーちゃん? 大丈夫? どこにいるの? うーちゃん!」
 泣きそうになりながら、話しかけると、物音の後に男の声が聞こえた。
「もしもし? 潮の友達?」
 男の問いかけに若葉は頷く。
「うん! うーちゃんは? そこにいるの?」
「……いるけど、ケガしてて代われないな」
 ケガ、と聞いて若葉は体を震わせた。電話を代われないほどのケガということは重傷かもしれない。若葉は涙を拭いながら、「どこにいるの?」と聞いた。
「そっちこそ、どこにいる? 迎えにいってやる」
 しばらく案内図の前で待っていると、二人の男がやって来た。二人は夏に会った潮のように髪を派手な色に染めて、体中にアクセサリーをつけていた。若葉を見た二人のうち、一人が電話をかけた。
「なんか、男なんですけど……おい、おまえ、若葉か?」
 頷くと、彼は小さく舌打ちする。潮と似たような格好なのに、彼とはまったく異なる雰囲気で、若葉は怖くなった。
「うーちゃんの友達?」
 別の男に話しかけると、いきなり腕を引っ張られ、駅の裏口まで引きずられた。強い力に驚いて、うまく歩くことができない。ふらふらと歩く若葉に男の怒りが増していた。人目のつかないところまで行くと、前触れもなく拳で顔を殴られた。痛いという表現では間に合わない。若葉は大量の涙を流した。
 衝撃で倒れて、下から男の拳を見ると、彼らの手にはごつい指輪がはめられていた。左頬に手を当てると、赤い血がつく。若葉はショックから立ち直れず、ぼんやりと彼らを見上げた。暴力を受けたのは初めてだった。制服のシャツをつかまれ、狭い道から大通りへ引っ張られる。そのまま駐車中のワンボックスタイプのバンへと押し込まれた。
 じんじんと痛み始めた右頬へそっと触れ、若葉は嗚咽を漏らす。両親や潮の名前を呼びながら泣くと、助手席に座っていた男が、「うるせぇ!」と怒鳴った。家に帰りたいと泣いても、怒鳴られるだけで、車が停まると、いらついた男に引きずり出され、その場で二度殴られた。倒れると腹を蹴られる。
「早く中に連れてけ」
 運転していた男がそう言うと、助手席に座っていた男が乱暴に若葉の髪をつかみ、壊れかけた扉を開けた。周囲を見回す余裕はないが、連れ込まれたのは廃れた喫茶店のような場所だった。階段を下りていくと、ロッカールームのような場所がある。
 若葉はもう家に帰りたくて、そのことしか考えていなかった。自分がどうしてここまで来たのか分からなくなる。今週末には潮が家に遊びにきてくれる。早く週末になればいいのに、と思ったところで、潮からメールが来たからここにいるのだと思い出した。
「何だよ、マジで男か」
 チェーン同士が擦れる音を立てながら、男が若葉の前に立つ。彼は若葉の顔をじっと見つめて、それから溜息をついた。

36 38

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -