わかばのころ36 | ナノ





わかばのころ36

 十月に入ると、山に近いふもとは朝晩の冷え込みが厳しくなる。若葉は制服のシャツの下に厚めの肌着を着ていた。月曜の午後は数学と化学の授業があり、すっかり忘れていた数学の宿題を昼休みの間に解いた。
 二学期が始まり、若葉は女の子達から夏休みに何かあったのかとしきりに聞かれた。理由を聞くと、ますます可愛くなったと言われ、何だか気恥かしくなる。若葉は誰にも潮のことを話していない。彼のことを考えると自然と笑みがこぼれる。休み時間はメールを打ったり、読み返したりしていた。
 九月に一度、潮が泊まりに来た後も、関係は劇的には変わっていない。だが、潮は翌日から、二人きりになるとすぐにキスをするようになった。メールの文面は短いものの、絵文字が好きな若葉のために、文末に絵文字を使ってくれる。
 一回だけ、「おやすみ」の一言にハートがついていて、若葉は嬉しくて画面いっぱいにハートを入れて返した。潮からの返信は、「ウザい。寝ろ」の一言だったが、そのメールも保護して読み返しては、顔をほころばせる。
 潮は十月にも来ると約束してくれた。同性同士のセックスについて、潮は準備方法を知っているみたいだったが、聞いても教えてもらえなかった。自分で調べようにも、パソコンはなく、携帯電話から調べた範囲ではよく分からない。仕方なく、父親に聞こうと思ったものの、潮のことが好きという話を父親に話したことについて、信じられないという言葉を潮自身から何度か聞いたため、結局、聞けなかった。
 最終的に相談しやすい大人、会田へ話を持っていくと、彼はそうとう驚いた様子だった。ただ父親から若葉の好きな人の話を少し聞いていたらしく、一から話さなくてもすぐに分かってくれた。
「今度、潮君が遊びにきた時にね」
 会田は若葉の髪をなでながら、笑顔でそう言った。受け入れる側の負担が大きいから、潮も一緒に聞いたほうがいいと判断したようだ。若葉は今週末を楽しみにしている。知識を得たからといって、この前のようにあせってしようとは思わない。どうしても潮の特別になりたくて、無理に彼の上へ乗ろうとしたことを話すと、会田は彼らしい柔らかな笑みを浮かべた。
「すごく好きなんだね。気持ちが抑えられないことは誰にでもあるから、自分を責めないで。潮君の言う通り、あせらなくていい。自分の体なんだから、大事にしないと」
 そう言われて若葉は安堵した。強引にしようとした自分が嫌な大人と重なって、暗い気持ちになっていたが、潮に嫌われたわけではない。若葉は心から自分の周囲にいる人間達に守られ、愛されていることを感じた。
「奥村、次、移動だぞ」
 数学の後、十分間の休憩の間に実験室へ移動しなければならない。若葉は返事をして机から教科書を探した。ポケットの中にある携帯電話が震える。確認すると潮からのメールだった。
 文面を読んだ若葉は慌てて立ち上がり、鞄も放置して教室を飛び出した。生徒玄関で内履きを脱ぐ。
「あれ、奥村?」
 若葉が帰ろうとしている姿を見て、生徒が話しかけてくる。だが、若葉は混乱していて、そのまま背を向け、走った。駅まで駆けて、路線図を見上げる。窓口にいる駅員へ潮の住む街の駅名までいくらかかるか尋ねた。財布を取り出し、乗り換え駅までの切符を買う。
 ホームに上がってから、若葉はもう一度、メールを開いた。胸が痛くなる。そこには、「若葉、助けにきて」とあった。発信ボタンを押して電話をかけるが、潮は出てくれない。何があったのか、どこにいるのか、と返信をしても返事はなかった。
 潮がこんないたずらをするとは思えない。だから、きっと本当に困った状況なのだと若葉は考えた。家とは反対方面の電車に乗り込み、不安でたまらなくなる。乗り換え駅までの時間、ずっとメールを打ち続けたが、返事はない。
 若葉は三時間ほどかけて潮の住む街へ到着した。駅は広く大きい。時計が十七時になろうとしているのを見て、家へ電話を入れなければと思った。

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