わかばのころ32 | ナノ





わかばのころ32

 潮は田んぼ仕事が忙しいと聞いて、刈り取りを手伝おうと思い、来てくれた。だが、昔と異なり、今はコンバインで刈り取りから脱穀まで一気にすることを説明すると、今の時期にすることは何かと聞いてくる。
「これから十月にかけては土に肥料を入れたりするくらいで、あんまりすることないよ。でも、うーちゃん、いい時に来たね。新米のごはん、すっごくおいしいよ。今日はうちでごはん食べよう? それで、うちに泊まって?」
 潮が苦笑して若葉の向こうを見た。若葉が振り返ると、牧がリンゴとシナモンのピザもどきを持って立っている。
「若葉、大胆だな? 泊まれ泊まれって、まずはお父さんかお母さんに確認しなくていいのか?」
「はーい」
 若葉が携帯電話で母親に電話をかけている間に、潮が香ばしいにおいを放っているリンゴをフォークで突き刺し、食べ始める。
「あ、うーちゃん、俺の分! え、違うよ。とにかく、うーちゃん、泊まっていいよね? ダメなら、俺が『むすび』に泊まるから、うん、うん、分かった」
 母親から牧か会田に電話を代わるように言われて、携帯電話を牧へと渡す。若葉は椅子へ戻ると、半分ほど減っているリンゴを確認した。
「うーちゃん、生地も一緒に食べてよ。リンゴだけ食べるとか卑怯だ」
 潮は笑うだけで、若葉の怒りを右から左へ流していく。本当は少しも怒っていない。先ほどの会田と同じだった。若葉は生地の部分を食べながら、楽しいと思った。彼が優しく笑っているのを見つめる。またキスをしたいと考えた。

 風呂に入った後、居間へ戻ると、祖父母と母親の姿しかなかった。
「布団、出しておいたわよ」
「ありがとう。ねぇ、ねぇ、うーちゃんは?」
 まだ半乾きの髪をタオルで拭きながら、若葉はくるりと体を回転させた。
「外じゃないかしら?」
 縁側から外へ出ると、月明かりの下で潮が父親と話をしていた。
「うーちゃん! お風呂、どうぞ」
 何を話していたのかは分からないが、二人の雰囲気は穏やかで、若葉は自然と笑みをこぼす。
「親父さんが先だろ」
「いやいや、お客様からだよ」
 父親の言葉に潮が頭を下げる。
「若葉、風呂場へ連れていってあげなさい」
「うん」
 階段の奥の風呂場へ案内した後、若葉は二階へ上がり、布団の位置を確認した。若葉の部屋は二人分の布団を並べても十分に広い。少し離して敷いてある布団を引っ張り、隙間ができないようにした。枕に顔を埋める。
「若葉ー!」
 母親に呼ばれて階下へ行くと、ジュースとお菓子がのったおぼんを渡された。
「あんまり夜更かしはしないのよ」
「うん。うーちゃん、もう上がった?」
「さぁ……あ、潮君」
 濡れた艶やかな黒髪を手ですきながら、潮がこちらへ近づいた。
「髪、乾かす?」
「いや、別にいい」
 潮は母親に礼を言い、居間へも顔を出して、「お風呂、お先にありがとうございました」と頭を下げた。階段の前におぼんを持って立っている若葉から、おぼんだけを奪い、彼は二階へと上がる。若葉はそのうしろを追いかけた。

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