わかばのころ28 | ナノ





わかばのころ28

「待て、今、泣くな。俺が泣かせたみたいだろ?」
 ふざけた口調で言う潮に、若葉は頷いて、ごみを片づける。潮の両親が明日、迎えにくる。冬休みまでの間に、いつ会えるのかは分からない。今まで、若葉の心にこれほど残る人間はいなかった。会えなくなると思うと、それだけで泣き叫びたくなる。それがとてもわがままなことだと分かっていても、自分を愛してくれる人達だけの世界で生きたいから、潮にはここにいて欲しかった。
「若葉」
 暗い顔をしている若葉の手を引いて、潮が近くの店で買った線香花火の袋を見せた。
「わぁ」
 若葉はその袋を手にする。
「いつ買ったの?」
「さっき、おまえが全然釣れない金魚釣りをしてた時」
「あー」
 若葉は一匹も釣れずに終わった金魚釣りのことを思い出した。
「夏の終わりにちょうどいいだろ?」
 潮が手を握って、境内の裏から小道へと出ていく。少し歩くと、人の声が急に遠くなる。民家の囲いに背をあずけて座り、潮が若葉の手に線香花火を一つ持たせてくれた。
「煙草、やめたんじゃないの?」
 ライターを取り出した潮に尋ねると、彼は笑う。
「やめた。でも、ライターはいつも持ってる」
 潮から煙草のにおいがしないため、やめているのは本当だろう。若葉もほほ笑みを返す。赤い炎が花火に移り、ぱちぱちという小さな音が続いた。
「きれい」
 若葉が少し高めに掲げると、潮も自分で火をつける。二つの線香花火が小さな太陽のように輝いた。
「あ」
 若葉の花火が消える。
「もう一つずつある」
 最後の線香花火に火をつけて、輝き、消えていく様を眺めた。自分の恋と重なって、若葉はくちびるを噛み締める。
「どうした?」
 燃えかすを集めて袋へ入れた潮がこちらをのぞき込んだ。
「だって、うーちゃん、帰っちゃう」
 潮は袋を小さく丸めるとポケットへ押し込んだ。
「帰るけど、また来るだろ」
「でも、ずっと一緒じゃないよ」
「若葉……」
 若葉は潮の困惑顔を見て、自分のわがままに気づき、うつむいた。同じ好きではない。だから、一緒にいたいと言えば、彼は困るだけだ。それでも、若葉は小さな声で望みを口にした。
「キス」
「うん?」
「うーちゃん、キスしたい」
 涙声になったのは、若葉の中でも葛藤があったからだった。今の関係を壊したくないのに、どんどん好きになって止められなくなる。困らせたいわけではないのに、自分の気持ちばかり優先している。
「の、いっしょ、の、おねっがい」
 若葉は泣きながら、潮にキスをして欲しいと頼んだ。潮はやはり戸惑いを隠せないようで、空を見たり、地面を見たりしていた。
「若葉、一生のお願いなんか、そう簡単に使うな」
 ぽんぽんと頭をなでられ、若葉は余計に涙を流す。潮でなければ嫌なのに、彼は同じ気持ちを返さない。好きになってもらえるなら、何でもするのに、と若葉は視線を上げた。
「ったく、俺を好きなるなんて、おまえ、ほんと変わってる」
「でも、好きなんだもん」
「分かった……キスか……おまえじゃなきゃ殴り倒してる」
 不穏な言葉に若葉が体を強張らせると、潮はそっと肩を抱いてくれた。
「バカ。おまえを殴るわけないだろ」
 潮は長い溜息をついた。

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