わかばのころ27 | ナノ





わかばのころ27

 夏祭り当日まで、若葉と潮はこれまでと同じように、川へ行ったり、『むすび』を手伝ったりして会っていた。彼は自然に接してくれるため、若葉は必要以上に緊張せずに済んだ。宿題もやる気はなかったが、終わるまで遊びにいかないと言われては、最後のページまでやるしかなかった。
 若葉は浴衣を着せてくれるという母親の言葉に頷いた。濃紺に薄い青色のダイヤ縞模様が入った浴衣を着て、長靴代わりに下駄を履いたら、若葉はさっそく転びそうになった。前にいた潮の腕をつかむと、彼のほうも予想していたらしく、すぐに抱きとめてくれる。
「ドジ」
 優しく言われて、若葉は頬を染めながら体勢を戻した。そのまま彼が手を握っていてくれる。
 相馬駅から北、道の駅へ向かう途中にある神社で行われる夏祭りは自治会の人間が中心になる。相馬地区だけではなく、四方に広がっている村の人間達と合同で行うため、屋台の数は少ないが集まる人間の数は多い。
 若葉の父親も会社が出しているタコ焼きの屋台にいた。牧達もそれぞれの場所で子ども達の相手をしている。若葉は小さい頃から毎夏、この夏祭りに来ていた。
「小さいけど、すごく活気があるな」
 夏の楽しみと言えば、この夏祭りくらいであり、近隣の村と合同ということもあって、子どもだけではなく、大人も久しぶりに会う人間達と話に花を咲かせている。若葉は焼きそばとフランクフルトを買い、近くの簡易テーブルへ移動した。潮も同じものを持っているが、彼は感心したように笑う。
「おまえは本当に何でもおいしそうに食うよな」
 若葉が小さく笑うと、潮も笑っている。無愛想で鋭い目つきの潮が笑うと、飛びつきたくなるくらい嬉しい。手をつなぎたいと思うものの、今は向かい合って座っており、しかも食事中に手をつなぐなんて、恋人同士でもないのに変だ。若葉は我慢して最後の一口を頬張る。
「奥村!」
 懐かしい声に振り返ると、中学校の同級生である豊田がやって来た。彼は全寮制の高校へ進んだ。おそらく夏休みだから戻ってきているのだろう。
「久しぶりだな」
 日焼けしている若葉と比べると、豊田はほとんど日に焼けていない。若葉の視線に気づき、彼は苦笑した。
「勉強ばっかでさ、宿題に追われてる……北稜の友達?」
 豊田が潮に気づいた。
「違うよ」
「こんばんは」
 人見知りしない豊田があいさつすると、潮も軽く頭を下げる。
「全然、会わなかったな。おまえ、家の仕事、手伝ってんの?」
「うん」
「そっか。またメールする。じゃあな」
 豊田も友達と来ているらしく、袋には焼きそばのパックが詰め込まれていた。若葉はラムネを一口飲む。
「中学の友達か?」
「うん。この地区に高校ないから、進学で皆、ばらばらになって、あんまり連絡も取ってないんだ。高校の友達も、こんな田舎までは来てくれない」
 ラムネの中で光っているビー玉を見つめた。
「俺、ここが好きだから、外に出たいと思えなくて……」
 でも、潮に会いにいくなら、車で三時間の距離くらい何ともないかもしれない、と思う。
「そうだな。ここ、すごく楽しいよな」
 都会から来ている潮の言葉に、若葉は、「楽しい?」と尋ねる。
「あぁ。山道も川も田んぼも、最初は面倒でつまらないって思ったけど、今は楽しいって思ってる。おまえからも色々教えてもらったからな」
 若葉の目がうるんでいくのを見て、潮が慌てて立ち上がる。

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