わかばのころ24 | ナノ





わかばのころ24

 朝日が昇る前に起き上がった若葉は、腫れたまぶたを枕に押しつけた。泣いたくらいでは、潮を諦めることはできない。階下へ行き、シャワーを浴びた。台所では祖母と母親が朝食の準備をしている。
「おはよう」
 笑顔を見せると、二人とも安堵した様子であいさつを返す。
「今日はじいちゃん、手伝うよ。もう散布は終わった?」
 田んぼへの農薬散布は薬を扱うため、まだ若葉は手伝わせてもらえない。危険な農薬は扱っていないが、薬は薬だと言って、祖父はなかなか薬品類には手を出させない。
「あぁ、そろそろ落水だろうね」
 祖母が野菜がたくさん入ったみそ汁をかき混ぜながら返事をくれる。
「お膳の上、用意する?」
「お願い」
 いつも通りの朝食を終え、若葉は祖父と一緒に田んぼへ出る準備を始める。
「若葉」
 車に乗り込む前に、父親が手を振る。若葉は長靴を履き、彼のそばへ寄った。
「お父さん、昨日はありがとう」
 父親は若葉の頭をなでた。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
 若葉が声をかけると、母親も出てきて手を振った。
「昨日、お母さん抜きで内緒話してたでしょう?」
「うん」
「話せるようになったら、お母さんも仲間に入れてね」
 若葉は母親を見た。同じくらいの背丈のため、視線が合う。心配性なのは母親のほうで父親は男の子だから、と多少のやんちゃな行為には口出ししなかった。昨日あんなに泣いたから、彼女はまだとても心配してくれている。それなのに、父親にしか話さなかったから寂しいのだろう。
「お母さん」
 若葉は母親を抱き締める。
「ありがとう」
 ぎゅうっと力を込めると、「痛いわよ」と尻をつねられた。
「若葉、行くぞ」
 祖父が軽トラックに乗り込む。若葉は母親から離れて、助手席へ乗り込んだ。

 穂の垂れ具合を見た祖父は、八月いっぱいは水位の調整をして、九月の一週目あたりで落水すると言った。田んぼから水を抜き、穂先が熟すのを見極めて、そして、刈り取り作業に入る。
 若葉は緑のじゅうたんを見つめながら、そのじゅうたんが黄金色に輝くのを想像した。昔から見てきている光景なのに、毎年きれいだと思う。あぜ道を歩き、若葉は畑のほうの雑草抜きを始めた。首に巻いたタオルと軍手で汗を拭いながら、雑草を抜くことに集中していると、祖父の笑い声が聞こえた。
 近所の人が散歩がてら上がってきたのだと思い、若葉は手元の作業に没頭する。単調で辛い仕事だが、雑草抜きはわりと好きだった。
「おはよう、若葉」
 とつぜん聞こえた潮の声に若葉はのけぞり、うしろの畝に尻もちをつく。
「大丈夫か?」
 手を差し出され、若葉はまじまじと潮を見上げた。
「うーちゃん?」
 昨日の今日で本当は顔を合わせるのが恥ずかしいのだが、今日に限って潮は朝からこちらへ来たらしい。いつもだらしなくはいているジーンズの裾を折りたたんで、ひざの下まで上げている。若葉が差し出した手を取らずにいると、彼は隣へしゃがみ込んだ。

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