わかばのころ18 | ナノ





わかばのころ18

 会田が用意してくれた夕食は、豚肉のピカタ、ホウレンソウとジャコの辛子味噌あえ、トマトとツナの冷製パスタサラダだった。若葉はごはんと味噌汁をおかわりして、黙々と食べる。
「若葉は本当においしそうに食べてくれるから、作りがいがあるよ」
 会田は空になった若葉の皿を見て、「残り物でよければ、昨日のアジの南蛮漬け、食べる?」と聞いてくる。それに頷くと、会田は席を立ち、キッチンへ消えた。
「うちにもあの業務用冷蔵庫があればいいのに」
 牧に言うと、隣で黙って食べていた潮が吹き出す。
「おまえなぁ……」
 呆れている声だが、潮が笑っているのを見て、若葉はやはり嬉しくなった。帰りは送ると言われ、それならもう少しだけ、と若葉は二階のコテージで潮とテレビを見ることにした。二階には宿泊用の部屋と牧達の部屋しかない。
 潮が使っている部屋は掃除を手伝う時に何度も入っているから、つながっているツインベッドの位置、バスルームの使い方、トイレットペーパーの場所やミニ冷蔵庫の中身まで、すべて把握している。冷房を入れた心地いい部屋で、若葉はふくらんだ腹をなでながら、ベッドに寝転んでいた。テレビを見終わり、シャワーを浴びている潮を待つ間、睡魔と戦う。
 もっと潮と一緒に過ごしたいと思う。夏祭りがあるのは二十九日で、おそらく潮はその後、家に帰ってしまう。彼も同じく高校生だ。当然、二学期があり、そう簡単に学校を転校できないだろう。それに、若葉は転校してきて欲しいわけでなはい。一緒に過ごしたいだけだ。
 若葉の周囲にいる同い歳や歳の近い人間の中で、潮は特異だった。女の子達のように若葉を守ろうとしてくれるわけでもなく、同性のように扱いづらそうな態度でもない。仲のいい友達はいい人間だが、時おり、若葉を下に見る。歳の近い兄のような存在で、若葉そのものを受け入れてくれるのは潮が初めてな気がした。

 若葉は薄暗い部屋の中で目を覚ました。冷房は止まっているが、少し肌寒く、薄手の大判タオルを探す。左手が温かい体に当たり、驚いて起き上がった。左手側に見知った金色の髪を見つけて、一気に目が覚める。潮はぐっすりと眠っていた。
 そっとベッドを下りて、バスルームの隣にあるトイレへ入った。便座に座り、若葉はどうしてここにいるのか考える。確か昨日は会田の夕飯をごちそうになり、その後、ここでテレビを見ていた。眠った覚えはないが、寝てしまったのだろうか。
 若葉はトイレから出て、右半分のベッドへ腰をかけた。潮は寝相が悪そうだ。そうでなければ、ツインベッドの片側に寄り過ぎる理由が見当たらない。まだ明け方の四時頃で、朝に強そうな牧や会田もさすがに寝ているだろう。若葉はもう一度、横になる。
 背中越しに聞こえる潮の寝息を聞きながら、若葉は眠ることができなかった。起き上がり、彼の顔をのぞき込む。潮の視線は鋭いが、目を閉じていると、幼く見える。それが何だか可愛くて、若葉はわき上がる感情をこらえられなくなった。
 若葉と違い、ヒゲを剃っている潮の頬にそっと指で触れる。柔らかいのに、表面はざらとしていた。若葉は痛む心臓を押さえながら、目を閉じて、その頬にキスをする。くちびるがトゲに触れても、彼のにおいと頬の柔らかさを感じるまで、若葉はくちびるを押しつけた。
 くちびるを放した後、放心状態の若葉は糸が切れた人形のようにベッドへ横になった。胸がどきどきする。潮のことがすごく好きで、好き過ぎておかしくなりそうだ。彼の左手に指先を絡める。本当はすぐに彼を起こして、「好き」だと伝えたい。若葉はそれを我慢して、ただ彼の手を握り締めた。
 潮の手は熱い。そこから熱をもらうように、興奮が若葉を支配して、すぐに抱きつきたい衝動へ変わる。以前ならそこまで意識していなかったのに、若葉は彼が目覚めた時、果たして手を放さずにいられるか分からなかった。

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