わかばのころ16 | ナノ





わかばのころ16

 小さいながらも飛び込んだ水音が響き、若葉は水中で潮の腰へ腕を巻きつけた。そのまま水の中に引っ張る。彼は予想していたらしく、水中で笑っていた。ただ、笑うと呼吸ができなくなるため、すぐに両手を動かして、水面へ上がっていく。若葉もすぐに顔を出した。
「こういうことするのが、単純なんだよ」
 潮はそう言うと、水をかいて、岩場へ上がった。若葉には負けるが、連日の日焼けで彼もどんどん小麦色になっていく。百六十センチぎりぎりの若葉は、とがらせたくちびるを水の中へ隠した。彼の身長や筋肉質な体が羨ましい。若葉も筋肉はついているが、彼のがっちりした肩幅や大胸筋、腹筋はきれいで憧れる。
 今まで少ないながらも健康診断や体育の時間に、同性のクラスメート達の裸を見る機会はあった。潮はその誰よりも洗練されている。彼が都会から来たという先入観だけの理由ではない。
「うーちゃん」
「あぁ?」
 若葉は潮の隣に座り、彼と同じようにあぐらをかいた。
「……煙草、やめたの?」
 話のきっかけを作ろうと、最近、気になっていることを聞いた。
「あぁ、煙草は慎也さんに没収された」
「慎也おじさんに?」
「俺、あの人に弱いから。たまに要司さんより、怖くね?」
 若葉は、「そうかな?」と首を傾げる。
「いや、なんつーか、誰でも頷かせるほほ笑みが怖い」
 潮が苦笑する。
「慎也さん、煙草の代わりにサキイカくれたんだぜ? 口が寂しくなったら、これ噛んだらいいよって本気の笑みで」
 若葉が大笑いすると、潮も思い出し笑いを始める。
「うーちゃん、サキイカ、食べてるの?」
「うるさい」
 煙草の代わりにサキイカを口の端にくわえる潮を想像して、若葉はその場に倒れる勢いで笑う。
「おまえなぁ、失礼すぎる」
「わぁっ」
 いきなり腹の肉をつかまれた。くすぐったくて身をよじっても、潮はなかなか放さない。
「おまえ、会った時より、ちょっと太っただろ?」
 図星だったため、若葉は押し黙った。座るとほんの少し、腹の肉がパンツのゴムの上に乗るようになっている。
「もぐもぐ、冬眠前かってくらい食ってるよな?」
「そんなことない」
「甘い物にも目がない」
「それは……成長期だから、いっぱい食べないとダメだもん」
 残念ながら、縦に成長してくれないが、まだ十六歳だから、これからだと思う。若葉はようやく解放された腹の肉を両手で左右に引き伸ばす。その様子に今度は潮が声を立てて笑った。
「嘘だよ。それくらい食ってるほうがいい。それに、おまえ、何でもおいしそうに食うから、いいなって思ったんだ。ほら、初めて会った時にさ、ピザあっただろ? 俺、あん時はあんまり食欲なかったんだけど、おまえがすげぇうまそうに食ってるから」
 潮は小さくほほ笑んだ。彼のほほ笑みを見ていると、若葉は胸が痛くなる。ずっと見ていたいのに、なんだかとても恥ずかしくなり、つい視線を落としてしまう。

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