わかばのころ14 | ナノ





わかばのころ14

「おわっ、何だよ、暑苦しいことすんな」
 振り払おうとする潮に、若葉は笑みを浮かべた。
「うーちゃん、怒ってない?」
「今、怒ってる。すぐに腕、放せ」
「はーい」
 怒っていると言われても、潮が本気ではないのは分かる。若葉は上機嫌でお茶を飲みながら、潮の隣を歩いた。バス停まで着くと、運のいいことにあと数分で到着する予定だった。
「これ、時刻通り来るよな?」
 バスは朝と夕方の時間帯は一時間に二本あるが、それ以外は一本だけだ。
「うん、大丈夫」
 若葉がこたえている間に、バスが見え始める。若葉は潮とともに一番うしろの席に座った。ちょうど夕暮れ時で、赤い太陽が山のほうへ沈んでいく。
「どこで降りるんだ?」
「山王前」
 冷房の効いた車内で若葉はペットボトルのお茶をひざに置き、しばらく右手の窓から夕陽を見ていた。まぶたが重くなり、頭がこつんと音を立てて窓に当たる。
「若葉」
 うとうとしている状態だったため、若葉は適当に、「うん」と返事をした。また頭が窓のほうへ揺れる。潮の手がうしろから回り込み、若葉の頭を左へ押した。若葉は彼の右肩へ頭をあずける。左手が無意識に服の裾をつかんだ。心地よい揺れの中、若葉は降車駅に到着するまでの数十分間をまどろんで過ごした。

 午前中、祖父の手伝いを終えた若葉は、自宅で昼食をとり、縁側に回り込んでくる潮の姿を待ちわびた。一緒に出かけて以来、潮は昼からこちらへ上がってくるようになった。時おり、会田に持たされたケーキやピザを手土産に、彼は徒歩で坂道を上ってくる。
 街のほうは何もないから、山のほうへ連れていけと言われて、若葉は昔からの遊び場である川へ案内した。下流にある田んぼをうるおす水源は、山中にある渓流だった。雨が降った後は行かせてもらえないが、夏は平瀬のため、水も少なく、源流部まで行ってもまず溺れることはない。潮は川が気に入ったらしく、ほぼ毎日、イワナの生息している源流部まで歩いた。
「あ!」
 潮が軽く手を挙げる。若葉は立ち上がり、縁側へ出た。
「若葉、帽子、持っていきなさい」
「はーい!」
 振り返ると、祖母が麦わら帽子を渡してくれる。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。今日も暑いねぇ。川で水浴びすんのかい?」
 祖母が笑うと、潮も笑いながら頷く。
「イワナにまで怖がられてますけどね」
 源流部の川で泳ぐと、川の中にいるイワナは当然逃げる。潮は何としてでも素手でつかまえたいようだが、水中で彼らに敵うはずがなかった。麦わら帽子ではないが、キャップのついた帽子を目深に被った彼は、若葉が運動靴を履き終わると、「いってきます」と会釈して、坂道をさらに上へ進む。
「いってきまーす!」
「気をつけて。暗くなるまでに戻りなさい」
「はーい」
 隣に並ぶと、若葉は潮が指輪や腕のアクセサリーを外していることに気づいた。

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