わかばのころ11 | ナノ





わかばのころ11

 若葉は足を取られそうになりながらも、必死に追いつこうとした。だが、坂道のため、足がもつれそうになる。そのまま転んでしまい、今度は両手をついた。ケガはないが、気づかずに進む潮が恨めしく、大声で呼んだ。
「うーしーおー!!!」
 潮は振り返り、驚いた顔を見せる。右手にはまた煙草を持っていた。彼は様子をうかがうようにこちらを見て、それから笑い出す。若葉はくちびるを噛んだ。
「おまえ、いくつなんだよ? 一日に何回転ぶ気だ?」
 煙草をくわえながら、道を戻ってきた。若葉は瞳をにじませる。
「ドジ。自分で立て」
 これまではいつも誰かが手を貸してくれた。若葉は母親達の前でだけ態度が違う潮を苦手だと思った。今から二人で出かけるなど、ただ辛い時間を増やすだけだ。彼は煙草の煙を吐き出す。
「……要司おじさんは、煙草、やめたよ?」
 若葉は手をついて立ち上がる。服の汚れを叩き、小さな声で言った。
「わっ」
 潮がいきなり胸を触る。Tシャツの上からだったが、ぺたぺたと軽く叩かれ、何事かと思っている間に彼が溜息をついた。煙草を吸い終わり、携帯灰皿へ吸い殻を入れている。
「ブラジャーしてねぇからおかしいと思ったけど、おまえ、やっぱ男かよ」
 若葉は潮の言い方に、少なからずショックを受けていた。可愛いと言われても、女の子と間違えられてもあまり気にしたことはない。だが、潮から言われると、なぜか分からないが悲しくなった。彼は背を向けて歩き出す。
「要司さんなんて、今さらだろ。長年、吸っててやめてもな」
 潮が言葉を返した。若葉は慌てて追いかける。
「だから、潮は今、やめたらいいのに」
 隣に並んで言うと、潮が肩を突いた。若葉はよろけたものの、転ばない。大きな声で威嚇されたり、こんなふうに小突かれたりするのは初めてで、どう反応していいか分からない。ただ先ほどと同じく悲しいと思った。
「俺に指図すんな。それと、歳下のくせに呼び捨てんな」
 潮は速度を上げて歩く。すでに『むすび』が見えていた。月曜と火曜は定休日のため、扉には英語で閉店の文字看板がかかっている。実際には鍵はかかっておらず、潮が先に入っていった。
 若葉はテラス席へ回り、椅子へ腰を下ろす。10分ほど経っても潮は出てこない。準備をしているのだとばかり思っていた。うしろから会田が驚いた声を出す。
「若葉? どうしたの? 来てるなら、中に入ればいいのに」
 テラスからレストラン内に入る扉が開き、会田が手を振った。若葉は会田を見て泣きそうになり、今日は涙腺が緩い日に違いないと思った。
「……うーちゃん、待ってた」
 店内は電気は消えているが、冷房は入っているらしく涼しい。若葉が潮を待っていたと告げると、会田が笑う。
「うーちゃんって潮君のこと?」
 頷くと、会田はさらに笑う。
「うーちゃんが呼び捨てすんなって言うから……あ、うーちゃん」
 階段から下りてきた潮に気づき、若葉が彼の名前を呼ぶと、彼は眉をひそめた。
「はぁ?」
 会田が笑いながら、「うーちゃんって潮君に合ってるあだ名だね」と言うと、彼は反論できないらしく、押し黙った。だが、視線は若葉を射抜いている。若葉は瞳をにじませ、隠れみのになりそうな会田のそばへ近寄った。
「潮君、若葉を怖がらせないで。二人でどこかに出かけるの?」
 その質問に、潮は、「あぁ」とこたえ、若葉は、「うううん」とこたえた。会田は若葉を見てから、潮を見る。
「俺、歯医者に行くから、車出すよ。乗ってく?」
 潮が頷き、若葉は会田の服の裾をつかんだ。

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