わかばのころ8 | ナノ





わかばのころ8

「違うよ。好きな人、まだいなくて、要司おじさんはどうだったのかなって思ったから聞いた」
 牧が、「なるほど」と頷く。
「若葉、十六歳だっけ? 俺はその歳の時、好きな人、いたよ。告白はしなかったけどな」
 懐かしむような声で牧が言葉をつむいだ。
「告白しなかったこと、後悔した?」
「してない。彼女はその後、二児の母親になった。俺は慎也とレストランを開く夢を叶えた。お互い、幸せに暮らしてる」
 嬉しそうに語る牧を見て、若葉も笑う。
「俺は好きな人ができたら、告白すると思う。だって、好きなんだもん。秘密になんてできないよ」
 牧は、「若葉らしくていい」と言ってくれた。買い物を終えて、『むすび』へ戻ると、車内でも口を開かなかった潮が、すぐに二階へ上がった。若葉は買い物袋を運ぶ。
「ありがとう」
 会田が受け取りながら礼を言った。店内には三組の客がおり、そのうち一組は母親達だった。紅茶のシフォンケーキとコーヒーを楽しんでいる。
「おかえり」
「座っておいで」
 会田に言われて、若葉はテーブル席に向かう。席に着くと、母親が耳を寄せる。
「ねぇ、さっきの金髪の子は?」
 若葉は二階へ続く階段を見ながら、彼の名前を教えた。
「潮っていう子で、要司おじさんの知り合いの子で、夏休みはあずかるって言ってた」
「歳、近そうね。若葉、お友達ができるじゃない」
「うん。あのね、すごく静かな子だった」
 一言も口を聞いてもらえないが、それは若葉にすれば静かな人という認識でしかない。会田がシフォンケーキを一切れ運んできてくれる。
「買い物に付き合ってくれたお礼だよ」
「あら、会田さん、つけてくださいよ。この子ったら、食べてばっかりじゃないですか」
 母親はそう言って、若葉の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「そんなことないですよ。若葉はよく働いてくれます。成長盛りだし、いっぱい食べないと、ね?」
 シフォンケーキを口にした若葉は大きく頷く。祖父母達が楽しそうに笑っていた。若葉は難しいことを考えるほうではないが、楽しい時間を過ごしていると、不意に寂しくなる。この時間が永遠に続けばいいのに、といつも思う。

 八月も一週目が終わろうとしていた。若葉は昼頃まで祖父と田んぼへ出て、冠水調整や小屋の中の掃除を手伝っていた。昼食は家でとるため、祖父とともに山道から回り込み、家へ戻る。先に家へ入った祖父の後を追おうとしたムウを呼び止め、首輪でつなぐ。
 麦わら帽子が熱風に吹かれて飛んでいった。若葉は転がる方向へ足を進める。白い煙が見えて、首を傾げた。山道の奥に潮を見つけた。
「潮!」
 麦わら帽子を拾って、潮に近づいた。セミの声がうるさいのか、彼は気づいていない。

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