わかばのころ7 | ナノ





わかばのころ7

「要司さんは?」
「俺はまだいい。オレンジジュースでいいか?」
 牧は潮に確認して、先ほど潮が両親と座っていたテーブルを片づける。
「若葉、彼は瀬田(セタ)潮君。夏休み中、うちであずかることになったんだ。仲よくしてあげてね」
「うん」
 若葉は三切れめのピザを頬張る。
「潮君、若葉はうちの仕事をよく手伝いにきてくれる優しくていい子なんだ。仲よくしてね」
 会田に優しくていい子と言われて、若葉は顔が熱くなった。美人で優しくておいしい料理が作れる人間から、そんなふうに褒めてもらえて嬉しかった。会田はキッチンのほうへ向かう。若葉は三切れめを食べ終えて、オレンジジュースを一口飲んだ。もう一切れ食べようと手を伸ばす。
「食べないの?」
 若葉が潮に聞くと、彼は指輪のはめられた手を出した。
「わぁ、いっぱい指輪してるね」
 潮の指先を見ていると、彼は何も返さず、無言でピザを食べ始める。会田がオレンジジュースを持ってきた。
「慎也おじさん、俺、今日は雑草抜きする?」
「今日はいいよ。要司さんが後で潮君と買い物に行くから、若葉さえよければ、ついて行ってくれる?」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
 食事中、潮は一言も話さなかった。食事の最中に話をするのは行儀悪いと学校で聞いたことがあったため、若葉は彼が行儀のいい人なのだと納得した。空になった皿とグラスを持ってキッチンへ入る。牧が石釜の火を調節していた。
「ごちそうさまでした」
「あ、若葉、買い物、ついて来てくれるんだってな。ありがとう」
 軍手を取り、汗を拭った牧が頭をなでてくれる。
「もう行く?」
「あぁ。慎也、じゃあ、ちょっと行ってくる」
 扉が開くと鈴の音が鳴る。会田は、「いってらっしゃい」と笑い、入ってきた客の対応を始める。潮はまだテーブル席に座っていて、テラス席のほうを見ていた。
「潮、買い物、行くぞ」
 牧に促されて、潮はようやく立ち上がった。グラスをそのままにして行こうとするため、若葉が下げようとすると、会田が、「そのままでいいから、行っておいで」と声をかける。若葉は頷いて、牧達の後を追った。

 牧は軽トラックではなく、普通乗用車を出した。地元のスーパーへ入ると、涼しい風で汗が冷えていく。若葉は牧のそばにいた。何を買いにきたかは知らなかったが、牧は会田に頼まれていた物をメモしているらしく、携帯電話を開いて、確認している。潮はすでにどこかに消えていた。若葉が視線をめぐらせると、お菓子コーナーに入る彼の姿が見える。
「若葉も欲しい物があったら、カゴに入れろ」
「うん」
 頷いたものの、若葉は満腹で欲しい物は何もなかった。牧の手からカゴを奪い、彼のそばから離れずに歩く。
「要司おじさん、俺くらいの時、好きな子いた?」
 鮮魚コーナーで魚へ視線を落としていた牧が、若葉のほうへ視線を向ける。
「何だ、若葉。恋愛相談か?」
 若葉は口をとがらせて、首を横に振る。

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