わかばのころ6 | ナノ





わかばのころ6

 軍手をした会田が石釜へ火を入れた。彼はローストチキンをしょう油やみりんで味つけしたタレの中へ入れ、その間に若葉と生地を伸ばす。タマネギの皮をむき、オクラとシメジとともに食べやすい大きさに切った。
 若葉が多少なりとも包丁を握ることができるのは、もっぱら会田の影響が大きい。彼と出会うまでは台所に立つこともなく、ただ祖母と母親の作る物を食べる側でしかなかった。
 会田は若葉がどんなにゆっくり作業していても、楽しく作ることを優先して教えてくれる。最初の頃はよく手を切ったり、小麦粉の入った袋を落としてしまったり、フライパンを熱し過ぎて、油がはねたり、パニック状態だったが、彼はどんな時でも慌てたり、いらついたりせず、見守ってくれた。
 合わせて三枚のピザを焼いている間に、訪問していた家族が帰るらしく、会田がキッチンを離れた。若葉は釜から見えるピザを眺める。三枚のうち、一枚はツナとコーンのピザになった。
「おいしそう」
 朝食が早かったせいか、若葉はすでに腹を空かせていた。汗が髪を濡らし、毛先からしずくになって落ちていく。麦わら帽子の上に置いてあるタオルで拭っていると、会田が戻ってきた。彼は釜の中のピザを確認する。パーラーでピザを取り出すと、チキンやチーズが香ばしい音を立てるのを聞いた。マヨネーズの香りが食欲をそそる。
 会田がパーラーの柄を若葉に渡した。若葉は焼き上がったピザをそっと引き出して、木製の皿の上へ乗せる。それから、ピザカッターで切り込みを入れた。
「ホールで食べる?」
「うん!」
 会田が皿を持ち上げる。
「冷蔵庫にジュースがあるから、好きなの選んで持っておいで」
「はーい!」
 冷蔵庫にあったオレンジジュースをグラスへ注ぎ、ホールへ出た。いつもはカウンターだが、会田はテーブル席にピザを置いている。
「慎也おじさんも食べる?」
「俺はいい。要司さんと潮(ウシオ)君が食べるかも」
「うしお?」
 レジを左手にして、まっすぐ行くと階段がある。二階には牧達のプライベートルームとコテージとして泊まることができる部屋があった。宿泊できることを大々的に宣伝しているわけではないため、二階に泊まる客はあまり見かけない。
 その二階へ続く階段から、牧と潮が下りてきた。潮のジーンズはだらしなく腰まで下げられていて、裾が汚れている。耳と同じように、首や手首にアクセサリーをつけていた。重そう、と思いながら、若葉は席につく。
「食べていい?」
「いいよ」
 空腹の若葉の興味は、なぜ潮だけが残っているのか、という疑問より、目の前のピザにある。
「いただきます!」
 まだ熱い生地を指先で持ち上げ、息を吹きかけながら食べる。
「んーっ」
 おいしいと言う前に、若葉の輝いた瞳を見た会田が笑った。
「若葉は本当に分かりやすい子だね」
 牧が潮を連れてくる。
「潮君も食べる?」
 会田が潮に尋ねると、彼は若葉のことを見た。口を動かしながら、若葉も彼を見つめる。牧が怖くないと言ったため、若葉の中の警戒心はすっかり消えていた。
「……食べる」
 若葉はピザの乗った皿を少し押して差し出した。

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