edge 番外編19 | ナノ





edge 番外編19

 和信が朝也と暮らすようになってからは特に、介入するようなことはせず、和信が連絡してくる時しか接触しなかった。だが、六月以降も永野に和信の動向を確認させていた。一弥は彼が母親のために体を売っていることを知っていた。すぐにやめさせよう、すぐに朝也へ知らせよう、そう考えて、焦燥感に追い立てられている自分を止めたのは貴雄だった。
「一弥、あいつが自分で判断してやってることだ。それに、もし、助けを求めてるとしても、おまえに言ってこない時点で、あいつが求めているのはおまえじゃないってことだ」
 オフィスだったため、一弥は泣きそうになるのをこらえた。
「俺、やっぱり個人客には向いてないってこと?」
 拳を握ると、貴雄が隣へ座る。
「今回の場合は、おまえのやり方で正しかったと思う。ただ、今後もこういうやり方でいくなら、おまえ、破産するぞ」
 一弥がかすかに笑うと、貴雄が指先でくちびるをなでた。
「個人を相手にしたいなら、してもいい。だが、おまえに法人部から外れてもらうわけにはいかない。社長としての意見だ」
「……社長じゃない、貴雄の意見は?」
 貴雄はソファの背もたれに体を投げ出し、天井を見上げる。
「今すぐ辞めさせて、家に閉じ込めたい」
 貴雄の手が髪をなでた。一弥は小さく笑う。同じように天井を見上げた。
「おまえが辞めるまで、俺も働くって決めてる」
「だろうな」
 出かかっていた涙はもうなく、一弥は姿勢を正して、永野からの報告書へ視線を落とした。
「直接がダメなら間接的に……平川と和信の母親を別れさせて、和信を解放する」
 和信にばれなければいい。ばれたとしても、こちらには平川から借金を回収するという名目がある。一弥はさっそく部下達を集めた。

 年末に設けられた市村組の忘年会会場で、敬司に呼び止められた。
「おまえにしてはずいぶん手荒なことをしたな?」
 くわえた煙草にすかさずライターから炎を出す。おまえも吸え、と寄越された煙草をくわえると、敬司が顔を寄せた。彼が言っているのは、十一月の出来事のことだ。平川と和信の母親を別れさせ、平川には新しい借金の契約書を母親へは隣国への航空チケットを渡した。その際に平川達がこれまで和信にしてきた仕打ちを思い、怒りを抑えられなかった一弥は、平川へ暴行を加えた。
 第三者に借金を払わせ、他人の人生を狂わせた平川が許せなかった。当然、母親も許せないが、一弥は女性に手を上げることができず、二度と日本へ帰ってくるな、と脅すに留まった。
「俺の軽率な行動が市村組の名を貶めるようなっいたたた」
 頬をつねられて、声を出すと、貴雄が気づいた。こちらへやって来るのが見える。
「そんなこと言ってねぇだろ。おまえにしては頑張ったと褒めてるんだ。分かるか?」
「ふぁい」
 つねられている両頬が痛い。一弥は右手に持っている煙草の灰が敬司のスーツへ落ちないように、慎重に彼の手に触れた。
「敬司さん」
 貴雄が敬司の腕をつかむ。彼は手を放してくれたが、一弥は頬を自分で擦って痛みをやわらげた。冗談だと分かっていても、痛いものは痛い。
「なぁ、貴雄。一弥も立派になったもんだな」
「はい」
 一瞬のためらいもなく、貴雄が同意すると、敬司は灰皿へ煙草を押しつけながら笑う。
「おまえら……まぁ、いいか。一弥、もっと飲め」
 日本酒を飲みながら、一弥は貴雄を見つめた。
「なぁ」
 貴雄、と呼びかけるのが恥ずかしくなり、一弥は呂律の怪しい状態で貴雄の耳へ顔を寄せた。
「おれ、ずっと、おまえのとなりにいる」
 貴雄の返事は知らない。一弥はそのまま彼の肩へ体ごとあずけた。覚えているのは一仕事を終えた達成感と敬司から認められた時の高揚感、そして、貴雄の笑みだけだった。

番外編18 番外編20(貴雄視点)

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