edge 番外編15 | ナノ





edge 番外編15

 一弥は嗚咽を上げ、「何でもします」と言う和信に心を痛めた。同情していたら、仕事にならない。貴雄の、「好きにやってみろ」という言葉も思い出す。自分なりの方法でやるしかない。効率が悪かろうと、甘いと言われようと、一弥は一弥のやり方を通すしかない。
 和信にコートを引っかけて立たせる。山中へ連絡を取ると、すぐに車を回してくれた。山中が乗っていたことは意外だったが、これから行く場所のことを考えるとちょうどいい。一弥がその手のパーティーに参加することはなく、自分一人では多少重い気分になるからだ。過去のことをすべて忘れたわけではなかった。今でも不安になると薬の効果を思い出してしまう。生きているのは、ただがむしゃらに貴雄の隣に立っていたいからだった。
 後部座席に座り、物思いにふけっていると、隣から自分を見つめる瞳に気づいた。和信はかすかに震えている。その瞳には見覚えがあり、一弥はまさかと思いながら、尋ねた。
「俺が抱くとか思ってない?」
 すると、予想通りの反応が返ってくる。こらえ切れず、大笑いしていると、和信も笑い始める。山中がウィンドウを下ろして振り返った。貴雄に報告されては困る、と口止めする。浮気などしたことはないが、貴雄が勘違いして浮気だと判断したら、取り返しがつかないため、後でもう一度、念を押そうと思った。
 煙草を吸っている間に目的地に着いた。和信にもそれなりの決意があるようだが、一弥はここで行われていることを見れば、引いてくれるだろうと考えていた。実際にアンダーグラウンドのステージに立たされたことのある一弥は、和信の働けるという言葉に激しく反応した。
「まったく、何と引き換えにしているのか知らないけどな……あと、すごく嫌なこと言うけど、こんなことと引き換えにしても欲しいものなんて手に入らない」
 声を上げて、怒鳴るように告げた言葉に、和信が泣きながら、「嘘だ」と言う。やるせない気持ちになり、一弥は拳を握り締めた。半端な気持ちで関わったわけではない。生易しい方法だと言われても、自分にだって、誰かを救えると、個人からもちゃんと回収できるのだと証明したかった。それはとても自分勝手な理由だったが、同時にこの青年を助けられるのなら、最良のことだと考える。
「山中さん、俺、甘いかな?」
 和信を送った後、帰宅途中の車内で助手席にいる山中へ話しかけた。山中は前を向いたまま、「そうだな」と返す。
「でも、その優しさが必要なこともある。そこがいいところだって言っただろ?」
 別に変える必要はない、と山中は笑った。
「それにしても、面白い子だったなぁ。一弥君に抱かれるとか、俺、そこに入れてもらって3Pを提案しようかと」
「山中さん!」
 振り返った山中は、大笑いしている。
「クリスマス専用のお楽しみ袋、あるよ?」
「いりません」
「じゃ、正月にエロ福袋あげようか?」
「いりませんって!」
 山中には田畑の他にも愛人がいるが、この男の相手は大変だろう、と一弥はマンションに着くまで、彼のふざけた下ネタ話に付き合いながら思った。部屋へ入ると、カウチソファに寝転んだ状態で、腹の上にノート型パソコンを乗せた貴雄が視線だけ寄越す。
「おかえり」
 ただいま、と返して、寝室でコートを脱いだ。着替えてからリビングダイニングへ戻ると、貴雄がちょうどビールを取り出した。
「お疲れさん」
 一弥は笑って受け取り、缶同士を当てて乾杯した。
「あー、明日もまた頑張れる」
 ビールを味わいながら言うと、貴雄が、「俺も頑張りたい」と一弥の体を抱き締めてくる。硬くなっている彼のペニスが腰のあたりに当たった。

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