edge 番外編12 | ナノ





edge 番外編12

 一緒にランチへ出られると思っていたが、社長室をのぞくと貴雄の姿はなかった。そういえば午後からは敬司のところへ行くと言っていたと思い出し、フロアへ向かう。
「一弥さん、今からですか?」
「うん。おまえらも?」
 三人の男達がエレベーターへ乗り込む。それぞれの名前を呼びながら、何が食べたいのか尋ねると、駅の地下街にある天丼屋の名前を出した。
「じゃ、そこ行くか」
「ご一緒していいんですか?」
 最初の頃は組織に馴染めず、貴雄を崇拝する男達から蔑まれていた一弥だが、今のこの状態も面倒だと苦笑してしまう。慕ってくれるのはとても嬉しい。ただ、その慕い方も色々とある。男達のうち、二人からは一度、「好きです。命にかえても守ります」と言われており、残る一人は熱でもあるのではないかと疑うほど、顔を赤く染めながら、こちらを見てくる。
 貴雄がいると、なかなか一弥とランチへ行くことができないため、今日の好機を逃したくないのだろう。男の顔を見ながら食事して、何が楽しいのか疑問だが、この間、敬司に会った時には、「無自覚と無意識が一番こえーな」と笑われた。彼いわく、一弥は無意識のうちに男を誘っているらしい。腹の立つ言葉だが、男達の自分を見る瞳を見る限り、おそらくそうなんだろう。
 また山中から「まだまだ甘い」と言われそうだ。それでも、一弥は彼らの慕い方を完全に拒絶することはできない。命にかえても守ります、と言われれば、自分の命くらい自分で守るから、死なない程度に全力を尽くせとしか返せない。それがまた、「一弥さんに惚れ直す」という状況を作り出すことに当人は気づいていなかった。
「うん、ご一緒していい。ランチはおごるから、食後のパフェはおまえらがおごれよ」
 姿勢を正すように、まっすぐな、「はい!」という返事をくれた三人に背を向けて、一弥は歩き出す。これこそ、まさに敬司が言う需要と供給だと思って笑った。

 Kファイナンスの華とも言える受付の田畑(タバタ)が内線で連絡しようとしている姿が見えた。彼女は気の利く人間で、親しみのある笑みが愛らしく、山中の囲っている愛人でなければ、すぐに誰かから交際を申し込まれていただろう。一弥も恋愛対象にはしないが、ひそかに可愛いと思っている女性の一人だ。
「ただいま」
 声をかけながら、来客者へ視線を投げかけ、田畑へ説明を求める。
「上野さんを訪ねていらしたそうです」
「翔太を?」
 来客者の青年が暴行を受けていることは一目瞭然だった。ここへ来る客は金を借りきたか、返しにきたかのどちらかだ。一弥は男達へ翔太を呼んでくるように言いつけ、ソファに座っている青年の前に屈んだ。翔太が暴力を振るうことはあり得ない。だが、傷は比較的新しいものであり、もしかすると、という可能性を考えてしまう。
 屈んで青年の顔をよく見ると、なかなか可愛らしい顔をしていた。それだけに傷やアザが痛々しい。
「どうぞ、中に入ってください」
 一弥は彼を個室へ連れていった。部下へ飲み物の用意を頼み、突っ立っている彼をソファへ座らせる。皆、一弥が法人担当だと分かっているため、好奇の視線をこちらへ寄越していた。スイッチを切り替えて、個室のプライバシーを守る。
「岸本さん」
「はい」
 とりあえず名刺を渡して、営業スマイルを浮かべると、青年は少しだけ肩の力を抜いたように見えた。
「あの、俺、母に言われて、金を持ってきました。多田和信です」
 切れたくちびるが痛いだろうに、きちんと用件を述べ、名乗った和信に、一弥は好印象を抱く。同時に彼の瞳に浮かんでいる絶望や諦めに似た色を見て、胸が締めつけられた。
「翔太、おまえ、手を出したのか?」
 飲み物を運んできた翔太に迫ると、彼は要領を得ないようで戸惑いを見せている。

番外編11 番外編13

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