ふくいんのあしおと 番外編6 | ナノ





ふくいんのあしおと 番外編6

 先に和信を温かい湯船に入れ、髪をなでながら話かける。
「何も気づけなくて、ごめん。おまえばっかり辛い思いをさせて、ごめん」
 新しい涙と嗚咽を漏らす和信の髪から、頬へ指先を移動する。
「……聞かないのか? おれ、は最低な、ことばっかり、で、おまえに、ふさわしく、ないっ」
 ようやくこちらへ焦点を合わせた和信に、朝也は穏やかにほほ笑んだ。
「おまえがどんな人間だったとしても、俺は今のおまえが好きだ。いつもおまえの味方でいる。いつもおまえの居場所になる」
 朝也が厳かに「愛していいか?」と尋ねると、和信が赤くなった。朝也は立ち上がり、まずは彼の髪を洗ってやる。交代で髪と体を洗い、ドライヤーで髪を乾かした。準備のために、少し遅れて浴室から出てきた和信へバスタオルを渡す。
「布団で待ってる」
 寝室には暖房がないため、朝也は二人分の布団を密着させて、コンドームとジェルを枕元に置いてから、布団の中へ入り込む。和信は朝也の不甲斐なさを責めず、彼自身を責めた。五年間、一人でこの布団で眠っていた彼のことを思うと、涙もろい朝也は泣きそうになる。五年前の選択肢は誤りだったかもしれないが、それがなければ今の関係はなかった。
「朝也……」
 髪を乾かした和信が入ってきた。朝也はかけ布団をめくり、温めていた場所へ和信を誘導する。彼もう泣いてはいないが、緊張した面持ちでこちらを見上げた。小さな電気スタンドの明かりが、彼の優しい茶色の瞳を輝かせる。
「ほんとに、俺でいいのか?」
 朝也はかけ布団を少し持ち上げて、和信の体を向き合う姿勢を取る。
「和信がいい」
 背中に回したかけ布団ごと、和信の体を包むようにして抱き締める。朝也の中心の熱はすでにたち上がっていた。くちびるやうなじにキスをしながら、彼の体を手で愛撫する。ペニス同士が当たって擦れると、彼は小さく吐息を漏らした。朝也はジェルを手にして、彼のペニスを扱く。ある程度、硬くしてから、ゆっくりと、アナルへ指を入れた。
「っ、あ、ァ、ん……い」
「痛いか?」
 和信が首を横に振り、「大丈夫」と続ける。朝也はペニスへの愛撫も繰り返した。早急に中へ入ろうとする欲望をこらえて、朝也はコンドームをつけたペニスを意識しながら、和信のアナルへ進めた。解したにもかかわらず、和信のアナルの中は狭くきつい。それだけで、彼の過去に何があったとしても、この五年は自分を待ち続けていたと分かる。嬉しくて、いってしまいそうだった。
「ぅ……アア、ン、と、ともっ」
 和信のくちびるが、「ともや」と自分の名前を表す。朝也は一度、中まで達したペニスをゆっくりと引き出し、また中へ入れた。冷たい空気を入れないように、かけ布団を引き上げて、体を密着させ、腰を動かす。ちょうど、腹のところへ和信のペニスが当たった。自分の名前を繰り返す愛しいくちびるにキスをしながら、律動を速める。
「和信っ、和信!」
 朝也が名前を呼ぶと、和信のアナルがいっそう締まり、朝也はそのまま絶頂を迎えた。腹の間にあった和信のペニスも吐精している。二人分の荒い呼吸が室内に響いた。朝也はしばらく余韻を楽しんだ後、ティッシュを取り、和信のペニスをそっと拭いた。腹の上の精液も拭い、コンドームを包む。それを電気スタンドのほうへ放ってから、少し汗ばんでいる和信の体を抱き締めた。
「愛してる」
 腕の中で和信がかすかに震えた。
「俺も……愛していい?」
 まだうかがうように見上げてくる和信に、朝也は笑いかける。
「おまえに愛される人間は幸福だな」
「そんなこと……」
「現に俺は今、すごく幸せだ」
 照れているのか、少し頬を染めた和信がかすかに笑った。この笑みをもっと見たいから、彼が過去を思い出して泣く暇もないくらい愛してやろうと、朝也は胸の中で静かに誓った。

番外編5 番外編7(引っ越し後の話/朝也視点)

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