ふくいんのあしおと 番外編3 | ナノ





ふくいんのあしおと 番外編3

 申し訳なさそうにうつむいた和信を腕に抱く。
「了解。五年も待たせたんだ。今度は俺が待つ番だな」
 冗談めかして言うと、和信はようやく笑みを見せてくれた。何度か彼のくちびると頬に音を立ててキスをした後、トイレへ行こうと立ち上がる。
「待って。口で……」
「いいって」
「でも」
 立ち上がろうとする和信の元へ戻り、朝也は彼にも前を出すように言った。
「手で触り合いっこならおあいこ」
 和信のペニスはあまりその気がなさそうだった。恥ずかしがって隠そうとする彼に、朝也は笑みを浮かべ、自分のたち上がったペニスを見せる。腰を突き出して横に振り、彼のペニスを攻撃すると、笑い声が響いた。
「と、朝也っ、おまえいったいいくつなんだよ?」
「二十七」
 真面目に返事をして、和信のペニスをつかむ。
「っちょ、ちょ、と、とも」
 あせっている和信を愛しく感じて、朝也はゆっくりと手を動かす。大きな抵抗はなかったため、彼の手を握り、その手を自分のペニスへ誘導した。彼の視線は手先にあり、こちらを見ていない。しだいに熱を持ち、大きくなるペニスに比例して、彼の呼吸が速くなる。
「っん、あ、は……ぁあ」
 和信が射精してから、朝也も絶頂を迎える。二人分の精液が手の中であふれた。彼は五年経っても見た目が変わらず、いけなことをした気分にさせる。うつむいている彼の表情を確認しようと、ティッシュで手を拭った後、そっと彼の顎をつかんだ。
「和信……」
 この時はどうして和信が泣いているのか分からなかった。朝也は和信がうしろだけではいけないことも、敬也が暴力を振るうようになってから、和信の前をいじらなくなったことも当然知らない。和信にとってはおよそ五年ぶりの人の手による射精だった。
「手、洗う?」
 頷いた和信を立たせて、洗面所へ連れていく。まだぼんやりしている彼の体をそっと抱き締める。離れようとすると、彼の手が服をつかんだ。何だろう、と考えていると、小さな声で問われる。
「……俺のこと、面倒だって、思ってない?」
「思ってない。どうしたんだよ? 思うわけないだろう」
 つむじにキスを落とすと、和信は必死に腕を回してきた。可愛いと思う反面、不安をあおる行動だった。朝也は抱き上げて、寝室へ運ぶ。布団は別々だが、引っ越し先では一つのベッドで眠るつもりだ。落とさないように、布団へ寝かせると、彼が存在を確認するように手を伸ばした。顔に触れてくる。
 和信は今日が仕事納めで、年始は七日からだと聞いている。顔に触れてくる手を握り返し、朝也は毛布と一緒にかけ布団を引き上げた。
「寝坊できるな。明日は何が食べたい?」
 夕飯のリクエストを聞くと、和信は目尻から涙をこぼす。廊下の電気が少しだけ入る薄暗い寝室の中で、その涙がきらきら光った。
「……った」
 小さな涙声が響く。朝也は耳を済ませた。
「さびしか、った……ひとりで、おまえ、にわすれ、られた、ら、って……ずっとひとりで」
 五年で戻ってくることができたのは、朝也自身、人並み以上に努力をしたからだ。本社に来たのに、支社に行きたがった朝也は陰で笑われていた。サイモンには正直に同性の恋人がいることを告げていた。仕事と恋人のどちらかを選べと言われたこともある。こたえは決まっていた。三年後にまたワシントンDCへ戻ることを条件に日本支社への異動を許されていた。
 和信の涙の前では、自分の努力や恵まれた境遇などどうでもよくなる。五年もの間、彼の大丈夫という言葉を信じて、彼の感情を放置していたも同然だった。

番外編2 番外編4

ふくいんのあしおと top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -