ふくいんのあしおと 番外編2 | ナノ





ふくいんのあしおと 番外編2

 午前中に届いたトランクケースを受け取り、朝也はリビングまで運んだ。クリスマスだというのに働かないといけないなんて、ご苦労なことだ、と思い、自分の恋人も働きに出ているのだと苦笑する。先に知らせておけばよかったが、彼が休みを取ってくれたかどうか疑問だ。
 日本支社へ異動できるまで、ここへは戻らないと決めて五年、和信の過ごした日々とはまた異なる悩みや苦労を乗り越えて、朝也はここに立っていた。
 トランクケースを開ける前に、部屋の中を見渡す。以前と変わらない。テレビ横の本棚にはWG社発行の雑誌が並んでいた。一冊、手に取り、付箋のついたページを開くと、自分が担当した企画のページが開く。日本への異動希望を一年目から出し、周囲から失笑された。サイモンにも、最低五年はワシントンDCにいてもらうと言われた。
 達成感に浸っていると、本棚の下にアルバムがあることに気づく。朝也はあぐらをかいて座り、中を見た。五年前の日付から始まる写真は、すべて朝也がメールに添付して和信に送ったものだ。どんな思いで彼がこれらの写真を現像し、アルバムを作ったのか考えると、朝也は目頭が熱くなる。
 昨晩、ケーキを食べながら、年明けまでこちらで過ごすと話した。正式な異動は四月で、支社が都心部にあることと、この部屋がこれから二人で住むには狭いことから新しい部屋を探したいと言った。
 朝也は岸本から時おり、和信の様子を聞いていた。帰ってきた時に他の男がいたらとか、実家へ戻った敬也とよりを戻していたらとか、色々な可能性を考えていた。だが、和信は自分のことを待っていた。和信が抱き返してくれた時、朝也は幸せ過ぎて時間を止めたくなった。
「仕事は辞めたくない」
 和信は引っ越しの話をした朝也にそう言った。以前、正社員になる寸前で仕事を辞めざるを得なくなったと聞いていたため、彼の気持ちはよく分かる。ただ、通勤距離が長くなることで体調を崩して、また辞めざるを得ない状態になるなら、新しい部屋の近くでもっと楽な仕事をして欲しいと思った。

 長い間、触れることも叶わなかったせいか、和信を抱き締めているだけで、自分の思いが満たされるのを感じる。夕食の後、シャワーを浴びてから、リビングで抱き合った。和信の体を足の間へ入れて、つむじを眺めながらうっとりしていると、「口でしようか?」と言われた。
 驚いていると、赤く頬を染めた和信が、「気になる」と、股間へ手を伸ばしてくる。確かに朝也のペニスは大きくふくらんでいた。こうならないように、帰国前に何度も抜いてきたが、やはり好きな人を前にすると無駄らしい。
 朝也は和信のくちびるにキスをしながら、彼の服を脱がそうとした。口でされるのは好きだ。中に入れるのとは違った緩いもどかしい感じで、吸いつかれるとすぐいきそうになる。だが、今は口でされるより、彼の体温を感じていたかった。
「っや、いや」
 服の裾から侵入させた手を、和信はつかんだ。何事かと思って、顔を確認すると、彼が本気で嫌がっているのが分かる。そういえば、彼はシャワーを浴びる前後も細心の注意を払っていた。体を見られたくないのだろう。
 だが、五年も経つ今、傷痕を見られたくないという理由は少し理解できない。千晶の傷痕は残っていないと聞いていた。和信の傷痕もほとんど消えているのではないか。今さら恥ずかしがらなくていいという意味を込めて、「俺は気にしない」と言った。
 和信が目に涙を溜めて、聞き返してくる。
「本当?」
「あぁ、気にしない。別におまえの体に惚れたわけじゃないから、どうしても見せたくないなら、電気も消していいけど」
「分かった。でも、残ってる痕のことだけじゃないんだ。俺の気持ちのほうが、まだ……」

番外編1 番外編3

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