ふくいんのあしおと42 | ナノ





ふくいんのあしおと42

 朝也はすぐに部屋を借り、同棲生活は問題なくスタートしていた。彼は居酒屋で週四回程度アルバイトをしており、だいたい十七時から遅い時は二時頃まで部屋にいない。
 和信も新しい派遣会社へ登録して、またサーバー監視員の仕事を探していた。なかなか空きが出ないことは知っているため、朝から夕方までのピッキング作業でアルバイトをしてつないでいる。
 夜は母親から電話があれば出かけて、朝也が帰るまでに、部屋へ戻るようにしていた。彼と一緒に暮らすことを、岸本はとても喜んでいた。月一回、返済の時に会うが、兄のように色々と心配してくれる。
「あの男と一緒に住んで、幸せな顔、もっと見られるかと思ったけど、おまえ、顔色、悪いな」
 煙草をくわえた岸本は、ライターがポケットにないらしく、忙しく手を動かした。和信がポケットからライターを出して火をつけると、礼を言いながら、顔を寄せる。
「そんなんじゃないですって。朝也は……敬也が俺にしたことに負い目を感じて、それで面倒を見てくれてるだけです」
 岸本は和信の言葉を笑った。
「鈍いな。第三者から見たら、そういうの、金でけりつけると思うんだけど。わざわざ一緒に暮らすメリットないと思わないか? だけど、彼がおまえを好きなら話は別だ。そのうち、アメリカに一緒に行こうって言われるぞ」
 その言葉に今度は和信が笑う。
「俺は借金を返済するまでどこにも行きません」
「おまえのじゃないだろ」
「母のキャッシングもあるんです。頑張ればあと一年くらいで終わる……」
 今のペースで体を売ればもっと早くに完済できるかもしれない。計算をしていると、岸本が吸い終わった煙草を灰皿へ押しつけた。
「困ったことがあったら、いつでも電話しろ」
 笑顔にこたえるように深く頷く。和信はKファイナンスを出て、電車に乗った。敬也と暮らしていた頃は、あまり料理をしなかったが、朝也と暮らすようになってもそれは変わらない。
 朝也は旅をしていただけあって、何でも自分でこなす。手際よくこなすため、和信の出番はほとんどなかった。部屋はマンションより小さな規模で、二階建てで六部屋しかない。階段を上がり、二階の真ん中の部屋まで歩く。
 明かりがついていた。鍵を開けて中へ入ると、すぐにキッチンが見えた。一人暮らし向けの部屋は狭いが、和信は不便を感じたことがない。キッチンからリビングが広がり、右手の奥に寝室があった。
「おかえり」
 部屋に入った時から、味噌の香りがしていた。朝也が包丁を置いて、振り返る。
「ただいま」
 朝也は味噌煮込みうどんを作っていた。
「おいしそう」
 四月とはいえ、まだ夜は寒い。マフラーを取ろうとすると、朝也の手がマフラーを巻き直した。彼は時おり、意味のないことをして、それを楽しんでいる。リビングでもう一度マフラーを取り、彼を手伝おうとキッチンへ戻る。土鍋にゆがいたうどんを入れた彼がこちらを見た。
「岸本さん、元気だった?」
「うん」
「タマゴ、落とす?」
「うん」
 冷蔵庫からタマゴを取り出した朝也が、タマゴを割った後、ふたを閉じる。和信は取り皿を出して、テーブルへ並べた。鍋敷きを探していると、彼が炊飯器の横から取って、差し出した。
「ありがとう」
 重そうな土鍋を軽々と持ち上げた朝也が、テーブルへ味噌煮込みうどんを置いた。

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