ふくいんのあしおと40 | ナノ





ふくいんのあしおと40

 吐血はしないが、和信はせきを止めることができず、苦しくしてその場にしゃがみ込んだ。
「和信、大丈夫か?」
 手を振り払われたことも気にせず、朝也が肩を抱く。和信は呼吸を落ち着けた。涙を拭いながら、言葉を吐き出す。
「も、いい。おれ、か、……える」
 朝也は何も返さず、震える和信の体を抱き締めた。和信は一瞬、体を強張らせたが、彼がただ抱き締めているだけだと分かり、抵抗はしなかった。
「和信」
 朝也はこんなに優しく自分の名前を呼んでくれる。和信は目を閉じて小さくささやいた。
「どうして、かあさんはおれのことよんでくれないの?」
 和信はこたえを知っていた。新しい涙が、朝也の肩へしみを作る。彼はそっと布団へ寝かせてくれた。そのまま和信の横に寝転んだ彼は、あやすようにそっとかけ布団の上からなでてくれた。
「……朝也、俺」
 腕を上げて額へ置く。少し乱暴にまぶたを擦った。母親からの言葉が欲しい。和信はまだ十四歳で、そこから進めない。母親の恋人を好きになった罪悪感とキスされた高揚感を忘れられない。だから、あの行為は自業自得だった。今さら言っても信じてもらえない。
「俺……最低な人間なんだ」
 朝也の力強い瞳が、こちらを見ている。彼は高潔過ぎて、すぐ隣にいるのに近づけない。和信は左手を床につき、彼のほうへ上半身を寄せる。キスをして、少しだけ顔を離した後、彼の表情を確かめた。彼は目を閉じていて、和信はもう一度、キスをする。
 ゆっくりと確実に深くなるキスを、朝也は受け入れてくれた。アナルからは出血があったため、セックスはできない。和信はわざとらしく彼のペニスをジーンズの上からなぞった。その動きで、彼の口から吐息が漏れる。
 和信はチャックを下ろし、下着から朝也のペニスを取り出した。ここが彼の友人の部屋でもどうでもよかった。ペニスを口に含み、教えられてきたように、舌とくちびるを使う。彼はやめろとは言わなかった。
 射精する寸前で朝也が、名前を呼んだ。和信は口の中に放たれた精液を飲み干す。彼が弛緩した体を床の上に投げ出した。今、自分がしたことを考えようとすると、起き上がった彼に両肩をつかまれた。
「何を確かめたかったんだ?」
 朝也はまるで何でもなかったような声を出した。彼の手が頬をなでる。
「……自分を貶めるなよ。こんなことしなくても、俺はおまえのこと、好きだ」
 和信は自分のいる場所まで朝也が落ちてきたらいいのに、と思っていた。だが、彼は落ちない。それどころか、和信のことを彼の場所まで引き上げようとする。
「どうでもいい。もう、どうでもいいんだ」
 和信は頬をなでる朝也の手を払う。結局、払う手なら、どうして最初から一人でいないのか、どうして電話で呼んでしまったのか、和信は自分の弱さに呆れた。
「ごめん、俺、どうかしてる。本当にごめん。母さんのとこに帰る」
 朝也を好きになることができたなら、もっと簡単だったかもしれない。玄関まで歩きながら、和信は新しい涙を拭った。やるべきことがたくさんある。仕事が見つからなければ、母親の言う通り、彼女達の持ってくる仕事をこなさなければならない。だが、最悪そうなっても、金が稼げるならそれでいいと思えた。
「和信」
 追いかけてきた朝也に呼び止められて、和信は振り返る。彼は小さく息を吐き、困った表情を見せた。
「母親のところへ帰るのは得策と思えない。そこから出てきたんだろ?」

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