ふくいんのあしおと24 | ナノ





ふくいんのあしおと24

 ほんの少し叩かれただけでも、内出血や打撲傷を負っている体はそうとうな痛みを覚えた。泣きながら、謝罪を口にする。謝れば、それが事実だと認めていることになる。だが、謝る以外に何もできない。腹を蹴られて、その後は叩かれただけだった。それだけでも、和信を不安定にさせるには十分だった。うつろな瞳に、笑顔の敬也が映る。
「かわいそうな和信。おまえには俺だけだ。仕事がなくても借金があっても、俺はおまえのことが好きだ。分かるな?」
 敬也の腕の中へ抱き締められて、和信は頷いた。
「なぁ、五百万の借金、俺が何とかしてやる」
 敬也の言葉に和信は首を横に振った。その借金は和信のものではない。敬也に払う義務はなかった。
「遠慮するな」
 敬也は和信の言葉に耳を貸さない。彼の腕の中で、和信は早く借金を返さなければならないと思った。借金さえなくなれば、彼が金を用意する必要はなくなる。このまま彼に払わせるようなことがあれば、問題がどんどん複雑化する気がした。

 銀行にはまだ八万円ほどが残っている。和信は五万円だけを下ろした後、一度、部屋へ戻った。二月にもらえる給料が最後だ。今月中か遅くても来月初旬には仕事を見つけて働かなければ、三月の給料に響いてくる。岸本へ連絡を取って、返済計画を見直す必要があった。
「もしもし?」
 金をせびるために連絡してきた母親に、和信は下ろしてきたばかりの万札へ視線をやる。後でそちらへ行く、と伝えると、彼女は上機嫌で電話を切った。平川の借金以外に母親のキャッシングと生活費が必要だ。臀部へ負担をかけないよう、リビングの床にうつ伏せていた和信は、手をついて立ち上がった。その瞬間、立ちくらみのような症状を起こしてその場に倒れる。
 朝から何も口にしていないことに気づき、和信はもう一度、ゆっくりと立ち上がった。冷蔵庫を開けると、ゼリーが並んでいる。おそらく敬也が買ってきてくれたものだ。和信がキッチンに立ったまま、ゼリーを一口食べると、インターホンが鳴った。
 ドアスコープから見た相手が朝也だと分かり、和信はあせった。敬也のいない間に部屋へ上げれば、また何を言われ、どんな暴行を受けるか分からない。その恐怖から和信の手は小さく震えていた。彼は再度、インターホンを鳴らす。無視すれば、いないと思って帰ってくれると思い、和信はしばらくドアスコープから彼が去るのを待った。
 だが、朝也は片廊下の手すりへ体をあずけ、煙草を吸い始める。一本吸い終わっても、去る気配はなく、五階からの景色を眺めていた。和信は金を持って母親のところへ行かなければならない。仕方なく扉を開けると、誰もいないと思っていたのか、朝也はひどく驚いた様子だった。
「何だ、いたのか……あ、もしかして、今日、夜勤? 寝てるのに起こした?」
 都合よく勘違いをしてくれたため、和信は頷く。
「兄貴は仕事だよな? 上がってもいい?」
 リビングへ座った朝也に温かいお茶を出した後、和信はキッチンに立った。食べかけていたゼリーを冷蔵庫へしまう。リビングとキッチンは離れていないが、微妙な距離感がある。それを気にしたのか、彼が手招きをした。和信は座ると痛いため、首を横に振る。
「大事な話なんだ。座って欲しい」
 黒い瞳が真剣にこちらを見ている。和信は嫌な予感しかしなかった。ずきずきと起こる頭痛にくちびるを噛み締めて、テーブルを挟んだ向かいへ座る。引きつるような痛みに顔をしかめると、朝也が、「調子、悪いのか?」と聞いてきた。
「寝不足なんだ。大丈夫」
 薄手のパーカーのようなものを着ていた朝也は、それを脱いで、お茶を一口飲んだ。
「実家へ帰ったんだ。兄貴と両親の話、したことある?」
 和信は首を横に振る。

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