ふくいんのあしおと22 | ナノ





ふくいんのあしおと22

 がたがたと震えている和信を見て、敬也は温かいシャワーで髪を洗ってくれた。体を洗う時、特に火傷している臀部付近に温かいシャワーがあたると痛くて泣き叫んだ。彼はすぐにシャワーを止めてくれたが、和信は泣き続けた。
 バスタオルで体を包まれた後、敬也がベッドへ寝かせてくれる。下着を身につけられない状態だった。腫れ上がり、火傷を負っている臀部へハンドクリームが塗られる。
「これしかなかった」
 和信は寒気から震えた。敬也が何度か火傷の痕へ薬代わりのハンドクリームを塗り、水を運んできてくれる。
「あんなもの、もらうから悪いんだ」
 まだビールで濡れたままの床に、アロマキャンドルのガラスが見える。和信は目を閉じた。何も考えたくない。全身の熱に体の中から溶けてしまいそうだ。それなのに、とても寒い。敬也の手が髪をなでてくれる。
「……ちゃんと話したんだからな」
 和信はうっすら目を開けて、頷き、もう一度、目を閉じた。結婚しないで、と懇願した通り、敬也は自分の恋人でいてくれる。借金の返済、スロット、飲酒、喫煙、欠陥だらけの自分の恋人でいてくれる。
 暴力を振るうのは自分が悪いからだ。敬也以外の男に色目を使った自分が悪い。母親もそれに気づいている。だから、名前をちゃんと呼んでくれない。すべてに理由があると、道理に合っていなくても受け入れやすくなる。和信はすべてを自分のせいにすることで苦しみも痛みも飲み込んだ。

 七日まで休みの敬也は、二日間、付きっきりで和信の面倒を見てくれた。トイレ以外、和信は大人しくベッドの上で過ごした。彼はとても優しい。熱いおかゆへ息を吹きかけて、うつ伏せている和信の口へ運んでくれる。火傷に効く塗薬も買って、冷たいタオルで冷やしてから塗ってくれる。
 自分が悪いと認めれば、優しい敬也が戻ってくる。それは金を渡せば喜んでくれる母親と同じだった。
「母さんには金、敬也には俺」
 壁を見つめながら、和信はその言葉を繰り返した。何かを忘れている気がしたが、分からない。ふと明日からの仕事へ行けるだろうかと考えた。トイレへ行く時も敬也の肩を借りなければ立てない。
「敬也」
 名前を呼ぶと、敬也はすぐに来てくれる。
「明日、行けないから、電話する。俺の携帯、取って」
 敬也は頷くと、充電してあった携帯電話を取ってくれた。和信が課長へ発信すると、彼はそのままベッドへ座り、頭をなで始める。年始から休むと言えば、いくら体調不良でも怒られるだろう。だが、今は座るのも辛い状態だった。コール音の後、課長が電話に出た。
「あ、あけましておめでとうございます。多田です……」
 体調不良のため、明日からの四勤のうち、二日間、休みたいと告げると、課長はあっさりと了解してくれた。了解というよりは、「明日、派遣会社へ連絡を入れろ」と言われて一方的に切られた。敬也は髪をなで続けている。
「和信」
 枕に沈めた頭を上げると、敬也が名前を呼ぶ。視線を合わせずに顔だけ上げた。
「借金はどれくらいあるんだ?」
 また殴られると思い、身を強張らせる。すると、敬也が優しく背中をなでた。
「怒らない。大丈夫だ。ただいくらあるのか、聞いてるだけだ」
 岸本が言っていた、「五百万」という数字を告げると、敬也の手が止まる。怖くなり、ベッドから下りようと体を動かすと、彼はただ仰向けに寝転がっただけだった。
「五百か……」
 そうささやいて、敬也はそれ以上何も言わなかった。

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