ふくいんのあしおと17 | ナノ





ふくいんのあしおと17

 十分に解されないまま、凶器と化したペニスを受け入れた和信は叫び声を上げた。すぐに近所迷惑だと言い口を押さえつけられる。
 痛みで意識がもうろうとしてきた。次に起きた時、優しい敬也に戻っていればいい。先ほど彼は自分だけだと言ってくれた。きっと両親へ話すのだろうと思った。二人一緒なら、和信も母親に言えるかもしれない。

 フライパンを使って殴打された体は、なかなか思うように動かなかった。赤黒い内出血はさらに色濃く変色し、おそらく打撲傷になっているのだと思われる。和信は今年、最後の休日も家で寝て過ごしていた。
 サーバー監視員はシフト制で、休みを申請すれば取得できることも多い。だが、チームに迷惑がかかるため、クリスマスから年末年始に休暇を申請できるのは正社員だけだった。
 クリスマスは彼女と約束していたらしく、敬也は彼女と過ごしていた。その後は実家へ帰るとだけ言われ、部屋に一人きりになった。仕事があるため、気は紛れる。給料が出た後はスロットを打ちに行き、三万勝って、母親へ渡した。岸本へも十二月分の二万を渡そうと連絡を取ると、彼は年明けでいいと言った。
 敬也が電話帳をバックアップまで削除してから、和信の携帯電話には母親と敬也と岸本の三人分のデータしかない。他にあるのは登録し直した職場関係の電話番号だけだ。
 深夜の巡回を終えてから、サーバールームへ戻った和信は、同僚達へ年始のあいさつをしながら、「異常なしでした」と告げる。年末年始の勤務は手当てがつくものの、この職場には妻帯者が多く、あまり出勤したがる人間はいない。結果的に、派遣社員二人と交代で入る正社員が一人というメンバーになる。
 特にエラーもなく、無事に元旦勤務から帰った。雪は降っていないが朝の十時でも凍えるような天気だ。和信は携帯電話からメールを送信した。母親も敬也もまだ寝ているだろう。少し考えてから、岸本へもSMSで年始のあいさつだけ送信しておく。
 敬也がこちらへ帰るのは四日の予定だ。嬉しいような、苦しいような気分になる。彼は自分のことをどんなふうに話したのだろう。彼女を傷つけなかっただろうか。
 岸本からの返信はすぐに返ってきたが、三日に届いた母親からのメールには苦笑が漏れた。お年玉が欲しい、というのは、冗談なのか本気なのか分からない言葉だった。敬也からは予定通り帰ると返信があった。ちょうど四日は休みだから、「夕飯を用意して待ってる」と送り返していた。

 あまり料理は得意ではない。和信は鍋の材料だけ買って、スーパーの袋を指に食い込ませながら歩いた。青アザ程度ならすぐに治っていたのに、赤黒いアザは治りが遅い。歩き方や姿勢によってはひどく痛むこともあった。
 エレベーターで五階へ上がり、扉の前でいったん荷物を置く。鍵を出そうとジーンズのポケットをいじっていると、うしろに大きな影が立った。驚いて、振り返る。非常階段のほうから来た男は、和信と部屋の前にある小さな表札を見比べた。
「あれー、ここに窪田って人、住んでないですか?」
 たくましい体つきをした男は、この寒いのにコートも着ていなかった。短い黒髪が今どきの若者らしく上を向いてつんつんと立ち上がっている。日焼けした肌は小麦色をしており、伸びかけている無精ひげは野性味を出していた。だが、瞳の輝きや頬に浮かぶえくぼを見れば、彼が自分より歳下だと分かる。
「……住んでる。今、実家に帰ってるけど、今日帰るって聞いてる」
 和信がこたえると、彼は背負っていた荷を下ろした。
「マジで? 全然、実家に帰ってないって聞いてたのに……あ、女ができたからか」
 彼は手をぽんと叩き、動揺した和信をのぞき込んできた。和信には彼が敬也の弟だと分かっていた。声も雰囲気も表情も全然違う。だが、放浪していると聞いていたため、敬也よりも高い身長に大きな肩幅、筋肉でふくらんだ腕や胸を見て、何となくそうだろうと予測した。
「君は帰らないの?」
 鍵を差し込み、和信は扉を開ける。
「あぁ、どうせ正月も終わったし、今回は半年近くこっちにいるから、今、慌てて帰る必要ねぇと思って……って、あのさ」
 外に置いているスーパーの袋を持ち上げようとすると、彼が軽々と彼の荷物と一緒に持ってくれた。
「おまえ、誰?」

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