ふくいんのあしおと13 | ナノ





ふくいんのあしおと13

 表面上は何も変化しなかった。敬也は十二月に入る前の週末、実家へ帰り、両親が見つけてきた相手と顔見知りになった。付き合うことになったという言葉もなく、当然のように彼は家を空けることが多くなった。
 和信が夜勤明けで眠っていると、掃除機を手にした敬也が入ってくる。
「和信、起きて」
 時計を見るとまだ正午過ぎだ。今夜も夜勤のため、体はまだ睡眠を欲している。和信が動けずにいると、腕を引かれ、ベッドから落とされた。
「い、った」
 あれからも暴力はなくならない。敬也の機嫌を損ねれば、彼は暴力でうっ憤を晴らそうとする。和信がどれだけ気をつけていても、仕事や彼女のことでストレスを感じると、彼は和信をはけ口にするようになった。
「ほら、早く」
 尻を叩かれて起き上がると、窓を開けた敬也は掃除機をかけ始めた。
「和信、今日、彼女が来るから、悪いけど、外、出てて」
「え」
 掃除機の音でよく聞こえなかった。和信が理解できない表情を見せると、掃除機を止めた敬也がいらいらした様子に変わる。
「だから、今日、彼女が来るんだ。俺、一人暮らしって言ってるから、出てけ。どうせ、夜勤だろ」
 和信はうつむいて自分のつま先を見つめた。ひざ辺りまである長いシャツを着ていたが、足にはアザが見える。足だけではない。顔は殴らなくなったが、和信の体中に暴行を受けた痕が残っている。
「和信、心配するな」
 目の前まで来た敬也が、そっと抱き締めて頭をなでてくれた。
「彼女とは寝ない。結婚した後も絶対寝ないから。俺にはおまえだけだ。分かるか?」
 分からない、と言えばまた殴られる。和信は頷いた。支度をしていると、彼がどんどん自分のものを押し入れの奥へ隠していく。偽るにしても、同居している友達がいる程度は言ってくれたのかと思っていた。だが、和信は彼を責められない。和信自身、母親には同性と暮らしていることを内緒にしている。もしも、知られたら、どんな顔をされるか容易に想像できた。
 和信は自転車に乗らなくなった。煙草を吸いながら駅前までの道をゆっくりと歩く。暴力があると決まって最後は無理やり犯された。肛門科へ行き、薬をもらったが、完治する前に犯されてしまうため、なかなか出血が止まらない。医者は和信がそういう商売をしているのだと思っているらしく、アナル以外に残る傷痕を見ても何も言わない。
 携帯電話の電話帳を見て、誰かの家で休ませてもらおうと思ったが、和信は結局、駅前のパチンコ屋へ入った。スロットコーナーは少し薄暗く、パチンコホールとは異なるロック調の音楽が鳴り響いている。うるさいくらいがちょうどいい。空いている席のデータカウンターを押して、総回転数を確認して回る。
 目当ての席に携帯電話を置き、缶コーヒーを買った。マッサージチェアが目に入り、疲れたらあそこで眠ればいいかと思う。財布の中には五千円ほどしかなかった。当たれば幸運だが、五千円程度をつぎ込んでもおそらく損をするだけだろう。だが、和信は時間を潰したいだけだった。
 一時間と少しで全額すった後、和信はパチンココーナーの店員へ話しかけた。
「ねぇ、俺ちょっとマッサージするけど、もし寝てたら起こしてくれる?」
 店員が快く頷いてくれたため、和信は空いているマッサージチェアへ横になる。実際に動かすとアザだらけの体が痛むため、仰向けになるだけだ。時間を確認すると十五時前だった。アラームを設定しても聞こえないため、そのまま目を閉じる。何時間も寝かせてもらえないだろう。一時間もすれば店員が起こしてくれると思い、和信は眠った。

 休日に入ってから、岸本へ連絡を取った。支払いの件を相談するためだ。母親から連絡があった時、和信はもしかしたら、平川が払うと言ったのかもしれないと期待した。だが、彼女の口から出たのは、彼女自身のキャッシングの借金のことだった。毎月一万五千円ほどだが、無収入の彼女にはもちろん払えない。
 平川の借金を肩代わりするから、彼女のキャッシング分くらいは払ってくれるのだと考えていた。その考えをつい言葉にしたら、彼女は電話口で声を荒げた。

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