ふくいんのあしおと7 | ナノ





ふくいんのあしおと7

 力の支配が終わった後も和信は気を失わず、乾いたくちびるを震わせながら天井を見ていた。夕陽が沈もうとしているのか、外が赤色に染まる。
 ガムテープを外した敬也は、和信の血と精液で汚れたペニスを口へ突っ込んできた。気持ち悪くなり、吐いたが、彼に殴られてもう一度くわえた。
 腕の拘束はそのままだ。体の痛みは重い熱を持ったような痛みだが、アナルの痛みは突き刺すような鋭いものだった。自転車に乗ることはできないだろう。歩いていくなら、早めに出なければならない。
 起き上がる努力をする前に、和信は目尻を流れた涙を腕で押さえた。何もかもどうでもよくなる。だが、ここで諦めても、状況はさらに悪化して進み続けるだけだ。せめて仕事だけは失わずにいたい。
 和信は起き上がり、携帯電話を探す。今日の出勤は難しいが、無断欠勤をすると心証が悪くなる。電話に出た課長へ、体調不良を訴えると、初めての欠勤だからか彼はひどく心配してくれた。嘘ではないのに心苦しい。
 電話を終えた和信は手を動かして、コードを外そうとした。ベッドシーツには血がついており、和信が吐き出した胃液で汚れている。それを見てまた気分が悪くなった。トイレへ駆け込もうとして掃除機に引っかかる。音を立てて転ぶと、リビングにいた敬也がやって来た。
「和信っ」
 殴られると思い、目を閉じたが、敬也は軽く和信の体へ触れただけだった。優しく触れた彼は体を立たせてくれる。
「大丈夫か?」
 敬也の言葉に和信は彼を見上げた。違和感があった。熱を持ち、痛みが押し寄せてくる体を抱えようとすると、掃除機のコードが引っかかる。
「あぁ、ごめん。外さないと……」
 まるで何事もなかったかのような態度に、和信はやっぱり夢かと思った。だが、拘束が外れた後、洗面所へ行き、鏡に映る自分の姿を見れば、現実だと理解できる。急いでシャワーを浴びた。全部、忘れたかった。よみがえった記憶ももう一度ふたをして、二度と思い出したくなかった。
 腫れている頬へ触れないように濡れた髪を乾かし、和信は全裸で洗面所を出た。寝室に入り、下着と衣服を身につける。ベッドシーツを見て、すぐに汚れたシーツをとった。リビングでは敬也が笑いながらテレビを見ている。洗面所へシーツを持っていくと、「和信」と名前を呼ばれた。汚れたシーツを洗濯機へ押し込みながら、震える指先を丸める。
「今日の夕飯、遅くなってもいいか? まだ何も準備してなくて」
「……う、うん」
 敬也が変わらずほほ笑んだのを見て、和信は呆然とした。彼の中ではなかったことになっているのだろうか。踵を返した彼が振り返り、大股で洗濯機の前にいた和信の前に立った。彼の指先が和信の髪に触れる。彼は髪を一房、耳の後ろへかけてくれた。
「約束だからな。裏切るなよ」
 耳のうしろへ髪を優しくかけた後、敬也が小さな声でそう言った。彼は少し体を傾けてキスを待つ姿勢になる。
 敬也のことが分からない。一年も一緒にいるのに、たくさんのことを共有したのに、どうして彼が結婚すると言い出したのか、和信には少しも分からなかった。親の期待を裏切ってきたとしても、親のすすめる見合い相手と結婚することでその期待を取り戻せると考えているなら間違いだと思った。本来の自分を偽っていることのほうが、大きな裏切りだからだ。
「……結婚、しないで」
 弱々しく言うと、一瞬で敬也の表情が変わった。しまった、と思った時には、髪をつかまれ。そのまま男二人が入るには狭い浴室へひきずられる。タイルの上で蹴られた後、冷たいシャワーで責められた。両ひざをつかまれ開脚させられる。まだアナルはじくじくと痛んでいた。
「っいあ、やだ、やめろ、何で、け、やっ、敬也!」
「約束したのに、裏切るのか」
 押し殺したような敬也の声がした後、顔にシャワーがかかる。うまく息継ぎができない。手を伸ばして必死にシャワーヘッドをつかんだ。いつの間にか脱がされていた下着が足に絡まり、動けなくなる。

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